目立つ高級ブランド
上海市では3月14日から17日にかけて、この時期恒例の家電見本市が開催されました。アジア最大規模とされるこのイベントの正式名称は、中国語で「中国家電及消費電子博覧会」。英語ではAWEと称され、フルネームは「APPLIANCE ELECTRONICS WORLD EXPO」となります。中国語では「中国」なのに、英語では「ワールド」と若干の大風呂敷気味なのはご愛敬。いずれにせよ、東京ドームの3倍以上の16万平米を誇る会場には、大小合わせて1000以上の企業が出展し、大いに賑わいました。
今回のAWEのテーマは「智能科技、創享生活」。科学技術を応用して家電と生活のスマート化を進める、とでも訳せましょうか。中国では近年、スマート化という言葉をよく聞きます。デジタル技術やハイテクを駆使して生活を豊かにするという発想は世界のトップクラスとも感じます。もっとも、単にキャッシュレスで購入できる自動販売機を「スマート自販機」と呼ぶ“なんちゃってスマート”もあるのですが……。言葉は使いようです。
さて、AWEの会場では、海爾(ハイアール)、海信(ハイセンス)、格力(グリー)などが大型ブースを設けて自社製品をアピールしていました。海爾は高級ブランド「カサルテ」を前面に出し、生活の質の向上を強調。どのメーカーも一緒ですが、冷蔵庫や洗濯機を壁やクローゼットに一体化させたビルトイン方式を提案しています。海信はVRヘッドセットを紹介したり、傘下ブランドの東芝のテレビを目立たせていたりと、マルチ製品・マルチブランド化を感じました。格力は強みのあるエアコンのほか、冷蔵庫も大々的に紹介していたのが印象的でした。
一風変わっていたのは華為(ファーウェイ)。展示スペースの大部分を、「問界(AITO)」「智界(Luxeed)」など他社と共同開発する新エネルギー車に割いていました。まるでモーターショーという趣きです。また、自社の鴻蒙(ハーモニー)OSを駆使したスマートホーム構築もアピールしていました。TCLはeスポーツやオンラインゲームとのコラボで、ゲームを大画面で実況中継するなどの工夫で集客を図っていました。
一方、大手家電メーカーの美的(ミディア)は今回も不参加でした。数年前までは海爾などと並んで1館貸し切りの巨大ブースを設けていたのですが……。コスト削減が目的と言われているものの、本当のところは分かりません。費用対効果を考えてのことなのでしょうか。
掃除ロボットや骨伝動イヤホンで地場系が存在感
AWEでは大手のほか、キラリと光る地場系メーカーも目立ちました。あくまで私の感想レベルですが、気になった企業を挙げてみます。
まずは、エコバックス・ロボティクス(科沃斯機器人)。上海市場上場のサービスロボットを手がける企業です。床用ロボット掃除機の「DEEBOT」、窓用ロボット掃除機の「WINBOT」シリーズを実演展示していました。前者のDEEBOTシリーズでは、細かな髪の毛もきれいに吸い取るという新製品「T30 Pro」のお披露目がありました。イメージキャラクターに人気俳優の胡歌を使い、ブースの集客力も上々。ただ、今年1月に発表した23年12月期業績見通しは前年比59.96~64.67%の減益でした。同業他社の価格攻勢に苦戦を強いられているようですが、今後の巻き返しにも注目です。
次は徠芬(ライフェン)。17年に誕生した中国の新興ブランドで、メイン製品はドライヤーです。スタイリッシュな外観と洗練された広告が特にZ世代を中心とした若者に受けています。この企業が今回前面に押し出していたのは電動歯ブラシ。技術よりも外観やカラーをアピールしている印象だったので、“映える”路線は健在といったところでしょうか。今回の見本市では他の家電メーカーも電動歯ブラシを多く展示していました。
そしてMojawa。こちらは骨伝導イヤホンで注目されている企業です。水泳やジョギング時などスポーツシーンでの使用例を映像・画像で紹介。私も試してみましたが、非常に軽く、耳へのフィット感も申し分ないものでした。最大8時間の再生が可能というバッテリーを搭載しているとのことです。
会場が広く、全てのメーカーやブースを詳細にチェックすることはできませんでしたが、スマート家電やAIの応用、高級ブランドの台頭、実力を持った中小メーカーなど様々な発見がありました。来場者はコロナ前よりやや減ったように見受けられましたが、業界関係者やバイヤーなどに加え、一般市民にも無料で開放されており、賑やかさは相変わらずでした。中国では消費財の買い替え政策「以旧換新」が発表され、家電市場が久々に盛り上がる機運も出ています。