万年3位の中国企業が躍進
中国ではスポーツを楽しむ市民が目に見えて増えています。フィットネスジムはもちろん、ダンスやヨガのスタジオはどこも盛況。街ではジョギングやサイクリングを楽しんだり、公園ではバドミントンや太極拳、そして「広場舞」に勤しむ人を数多く見かけます。
上海体育学院などのまとめによると、2021年時点でのフィットネス会員人口は7513万人に上るということです。前年比では6.9%の増加。対全人口比でのフィットネス浸透率は5.4%となり、17年の3.5%から順調に伸びてきました。
さて、スポーツに欠かせないものといえばウェアやシューズです。各ブランドが機能性やファッション性などを重視した製品を投入し、競争も激しくなっています。この成長市場で昨年、ちょっとした変化が起きました。市場シェアでこのところ“万年3位”状態だった地場系の安踏体育用品(アンタ)が、なんとアディダスを抜いて第2位に躍り出たのです。このニュースを驚きをもって受け止めた人も多く、私もその一人でした。
数字で並べると、1位はナイキの25.2%、2位はアンタの16.2%で、以下、アディダス(14.8%)、李寧(8.2%)、スケッチャーズ(6.6%)と続きます。ナイキとアディダスは中国で不動の“2強”でしたが、アンタがその一角を崩したことになります。アディダスは新疆綿問題で不買運動の影響を受けたともされます。
都市部と地方部で全く異なる光景
さて、アンタの店舗は中国全土に約9400店近くありますが、上海ではほとんど見かけることができません。路面店と言えば、観光客が多く訪れる南京路の大型店くらいで、ショピングモールでも見たことがありません(私の行動範囲が狭いだけかもしれませんが)。語弊のある言い方になりますが、上海ではやはりナイキやアディダスなど海外ブランドへの憧れと人気が高く、国産ブランドはややダサいというイメージもあるのでしょう。
ところが、地方都市に行くとこの光景が一変します。アンタや李寧をはじめ、361度や特歩など中国地場系ブランドのお店が至る所にあり、どの店も人気です。街でも国産スポーツブランドを身につけた人を多く見かけます。上海に住んでいるだけでは分からないことがまだまだたくさんあるものです。
地方都市在住の知人からは興味深い話も聞きました。「もちろんナイキやアディダスのブランド力は強いし、子供にも着させたい。ただ、ちょっと高いのが難点。小さい頃から買い与えると、ずっと同じブランドを欲しがるから家計には厳しい。だからアンタや李寧を買ってあげている」。何だか不思議なロジックですが、分からなくもありません。
地場系ブランドは決して海外製の代替品というわけではなく、近年はファッション面も強化し、Z世代と呼ばれる若年層にアピールしています。国産品を見直す「国潮(グオチャオ)」トレンドも追い風です。アンタはよりオシャレでスポーティーなFILAブランドも展開しており、様々な客層を開拓しています。バスケットシューズやマラソンシューズに強いメーカーも現れるなど、中国勢の力が全体的に底上げされている感もします。
アンタは25年までにナイキを抜き、中国市場でトップブランドになるという壮大な目標を掲げています。この勢いで一気にシェア首位に踊り出るかどうか。中国地場系ブランドの雄の動向がますます注目されます。