中国現地Now!

中国現地Now!勝ち組と負け組で明暗、上海の外食産業の現在地

上海が北京に抜かれた?

 

中国の景気悪化が鮮明になっています。2022年4~6月期のGDP(国内総生産)は前年同期比0.4%増にとどまりました。1~3月期の同4.8%成長から大きくペースダウン。新型コロナウイルス対策に伴う各地での都市封鎖(ロックダウン)の影響が大きく出た形です。通年目標の5.5%前後成長の達成も難しくなってきました。

 

上海の4~6月期のGDPは前年同期より13.7%減少しました。やはりロックダウンのダメージは大きかったよう。上半期で見ると、上海のGDPは1兆9349億元となり、北京はそれをわずかに上回る1兆9352億元。これを受け、現地では「北京が初めて上海を抜いた」「これで上海は中国最大の経済都市と言えなくなる」などのネタで盛り上がりました。

 

さて、上海で気になるのは消費面の回復度合いです。製造業はロックダウン中から優先的に稼働再開となり、6月の鉱工業生産は前年同月比13.9%増と持ち直しましたが、小売額は同4.3%減とまだマイナスのままです。ロックダウン直前の今年3月は同18.9%減で、4月は48.3%減、5月は36.5%減でしたので、これらと比べると改善していますが、まだ物足りないのが正直なところです。6月の中国全体の小売額が3.1%増とプラス成長を取り戻しているため、上海の出遅れ感が目立ってしまいます。



人気店の戻りは順調、閑古鳥が鳴くところは……

 

上海では特に外食産業の不振が指摘されています。6月の飲食部門の売上高は前年同期比29.7%減。市内の多くのエリアにおいて6月下旬まで店内飲食が禁止されていたので、これは致し方ないかもしれません。ただ、街を歩いていると一つの光景に出くわします。それは「人気店は賑わいを取り戻している一方、客足が芳しくなかったところは相変わらず閑古鳥状態」というものです。

 

これは2年前のコロナ感染拡大初期にも見られました。従来からの繁盛店は、一時休業に追い込まれても、営業再開するとすぐに常連客が戻ってきたようです。もちろん、休業時の機会損失は大きく、私の知り合いの人気店のシェフは「店さえ開けられれば客は来るのに」ともどかしい思いをしていました。しかしながら、店内飲食の解禁後に往時の賑わいをすぐに取り戻せたのは幸せな方だと思います。

 

一方、街では閉店に追い込まれたレストランやカフェ、バーなどを多く見ます。日本のような休業補償や協力金などはないため、資金繰りに苦しむ店が多数。店舗家賃は大家との交渉次第だったり、従業員の給与もかさむなど、かなり厳しい状況でした。私が上海で住むマンション近くでも、ロックダウン前には超がつくほどの人気だったお洒落なカフェが、封鎖解除後の6月になるともぬけの殻状態になっていたことがありました。軒先にあるのは「テナント募集」の張り紙だけ。なんとも空しい光景でした。

 

上海では感染クラスターが時々発生しているため、外食を避ける市民も少なくありません。全く行かないというわけではなく、これまで週3回だった外食を週1回に減らすなど、私の周りでもやや消極的な姿勢が見られます。大勢での会食や宴会も当面は厳しそうです。

 

街中に市民が戻ってきているのは事実で、地下鉄が混雑する時間帯もあります。ただ、通勤や通学など、「A地点からB地点への移動のみ」の市民が多く、商業施設や外食施設に立ち寄る人はやや減っている気がします。この微妙な消費行動の変化が経済統計にも暗い影を落としているのかもしれません。

 

今後、消費市場は徐々に回復に向かっていくでしょうが、コロナ再拡大の懸念は常に付きまといそうです。上海では、無料PCR検査の期間が8月末まで延長され、最低でも1週間に1回の検査が義務となりました。戦いはまだまだ続きます。

この連載の一覧
ティードリンク市場がアツい! 上場予備軍も続々
不動産市場にまつわるエトセトラ
アンケートから景況感を探る! 貯蓄志向は依然高め
「消費降級」で明暗、外食チェーンの激しい争い
何はなくともカップ麺、鉄道旅のマストアイテム
アジア最大の家電見本市、スマート化に注目
大学生にゲーム規制? 全人代の提議あれこれ
ジェットコースター相場、波乱の1月と2月
変わる中国新エネ車業界、テック系が続々進出
春節前の政策相場、底打ち機運の中国株
朝から「メンクイ」、好みの麺をご賞味あれ
“ポスト・コロナ”の中国、外国人の目にはどう映る?
2年連続で前年割れ、人口減社会に直面する中国
“コロナ前”の水準回復へ、中国旅行市場の現地温度感
「元旦快楽」で辰年スタート、2024年の中国はどうなる?
並ぶのも一苦労、中国ならではの行列事情
ネット通販の主役交代? 好調続くPDD
頼りになる「即時配送」、旅先でも気軽にデリバリー
中国人のリアルボイス、不動産や就職事情を聞いてみた
「有軌電車」でGO! 着々広がる中国の都市交通網
白酒値上げのカラクリ、マオタイの時価を探れ
火鍋を語ろう、中国発のナベトーーク!
スマホオーダーで気軽に一杯、中国コーヒー最新事情
交通規制は突然に、中国式厳戒態勢
中国に「デフレ」という言葉はない?
行楽シーズン到来! 中国のオススメ観光地を大紹介
大型連休がやって来る! 9億人が大移動
ライバル逆襲と使用禁止令、中国でiPhoneはどうなる?
政策後押しで復活なるか、中国の不動産最前線
「水問題」で非難一色の中国、日本バスケで思わぬ展開に?
アリババ&テンセント、進む人員削減とスリム化
イベント消費で経済を回せ、政府も積極支援中
デフレ懸念も何のその、ホテル料金が上昇中
街に活気戻り売上が回復中、中国外食産業の現在地
人口と婚姻数が減少中、中国の若者の人生観とは
空港着いたらライドシェア専用乗り場へGO!
待ちぼうけはつらいよ、夏場のフライトあるある
「貯蓄重視で投資は控え目」、中国人のお金はどこへ向かう?
家族連れで賑わう場面も、端午節のプチ旅行
今年も猛暑? 早くも節電の呼びかけ
「618商戦」がやって来る! ネット通販で買い物三昧
キーワードは「頭文字C」、注目される国有企業の行方
中国でコロナ感染再拡大、それでも市民の多くはノーマスク
中国の若年失業率は20%超、雇用確保が優先課題に
現金要らずの連休旅行、何でもスマホとキャッシュレス
大盛況の上海モーターショー、中国地場系の躍進目立つ
「スラムダンク」が中国でも大人気、初日興収18億円!
「ラストワンマイル」はアナログリレーで解決?
火鍋チェーンの「呷哺呷哺」、一人鍋で存在感
ドライヤー市場に新風来たる、Z世代に人気の新興ブランド
日中間の移動がスムーズに! 国際線の増便・復便進む
復活する消費市場、北京の街に賑わい戻る
復活中の結婚式ニーズ、動き始めたヒト・モノ・カネ
改札時間は15分ジャスト! 中国の鉄道事情あれこれ
酒と言えば白酒! 宴席需要でニーズ増へ
たかが発票、されどファーピャオ
春節映画からの岳飛ブームと聖地巡礼
ノーマスクで新年快楽!? 中国春節の珍プレー好プレー
深夜の配車2時間待ち、春節前ならではの事情とは
中国で旅行ブーム再燃か、海外渡航はそろりスタートへ
賑わい消えた師走の上海、配送バイクも不足気味
中国現地Now!政策緩和と感染急増、混乱する中国市民
中国現地Now!コロナ規制見直しも感染拡大を警戒する中国
中国現地Now!上海デモの最前線、市民の反応と後始末
中国現地Now!政策と実態に大きな矛盾、「中の人」から見た中国コロナ対策
中国現地Now!スマホで気軽にグルメ堪能、中国“ワイマイ”市場最前線
中国現地Now!生活に欠かせない中国の“スーパーアプリ”とは
中国現地Now!Go To 海南!Go To 免税!
中国現地Now!波に乗れない中国消費、逆風下で盛況の飲食店は?
中国現地Now!上海で「水騒動」勃発! パニック買いの背景とは……
中国現地Now!屋台経済が中国を救う? 上海で復活の兆し
中国現地Now!日系外食が苦戦、中国人の胃袋をつかむ戦いは続く
中国現地Now!「映える」火鍋料理、極上の牛肉麺
中国現地Now!円安の恩恵はいずこ? 中国人の海外旅行は夢のまた夢
中国現地Now!中国入国時の“ガチ隔離”を見てみよう
中国現地Now!猛暑と干ばつで電力不足、今年の夏はキツい!
中国現地Now!訪問先で隔離リスク、中国国内旅行は綱渡り状態
中国現地Now!新エネ車が快走中、550万台市場へ視界良好
中国現地Now!勝ち組と負け組で明暗、上海の外食産業の現在地
中国現地Now!上海はその後どうなった? “ポスト都市封鎖”のリアル
中国現地Now!ナイキとアディダスの牙城を崩す中国ブランド
中国現地Now!復権なるか、中国のシェア自転車最新事情

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

奥山 要一郎の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております