中国現地Now!

ネット通販の主役交代? 好調続くPDD

理性的消費を反映したダブルイレブン


もう1カ月ほど前のことになりますが、ネット通販セールの「ダブルイレブン(独身の日セール)」がありました。「ありました」と言うと素っ気なく聞こえますが、現地では例年ほどの盛り上がりは見られず、静かに終了した印象です。かつてはアリババ集団(09988)などがセール期間中にライブコンサートのような大型イベントを行っていたものですが、年々大人しくなってきました。社会に享楽主義や贅沢三昧を戒めるような空気が漂う中、仕方がないことなのかもしれません。


ダブルイレブンの全体の総取引額(GMV)は1兆1386億元と、昨年の1兆1154億元からわずか2%の増加にとどまりました。かつては二桁の伸びが当たり前だったので、勢いの衰えが目立ちます。今年は割引率が控え目だった印象があり、市民の間からは「普段のセールとそれほど値段が変わらない」という声も聞かれました。「特にダブルイレブンにあわせて買う必要もない」という行動心理が働いたとも言えるでしょう。


商品別の売れ行きを見ると、これまでの定番だった家電、コンシューマーエレクトロニクス、衣類、スキンケア用品・化粧品が前年割れ。一方、スポーツ・アウトドア用品が7.2%増、食品・飲料が7.5%増と伸びが目立ちました。アウトドア製品の増加は、コロナ禍を経てキャンプやピクニック需要が高まったことが背景にありそうです。食品・飲料については、スナック菓子や飲料品のまとめ買い需要があったと聞きます。「普段使いの商品を少しでも安く」という心理が働いたのでしょうか。


いずれにせよ、市民の財布の紐がやや固くなってきたことがうかがえます。これを「消費マインドの後退」と簡単に片付けることもできますが、足元景気や将来への不安に鑑み、生活防衛的な消費スタイルが強まってきたとも言えるでしょう。これまでの貪欲な買い物スタイルから理性的な消費への移行とも理解できそうです。


PDDが時価総額でアリババ超え


そんな中国EC業界の中で気を吐いているのがピンドゥオドゥオ(PDD)です。6月にも当コーナーで「直近ではピンドゥオドゥオの一人勝ちの様相」と書きましたが、その勢いが続いています。


改めて、京東集団(JDドットコム、09618)、アリババ、PDDのネット通販“御三家”の売上高を比較可能な時期及び項目で比べてみます。


【23年7~9月期】


◆京東集団

売上高:195,304百万元

※「商品収入」部門


◆アリババ集団(09988

売上高:92,560百万元

※傘下淘天集団の「中国小売り」部門


◆PDD

売上高:39,687百万元

※「ネットマーケティングサービス他」部門


PDDは22年以降、四半期ベースでの売上成長率で他2社を大きく上回っています。京東とアリババが低成長、ひいてはマイナスに陥った時期もあるのに対し、PDDは概ね30~60%前後の成長を遂げてきました。直近の23年7~9月期では、京東集団が前年同期比0.9%減、アリババが同3.0%増でしたが、PDDは同39.3%増となっています。



11月下旬にはPDDがアリババを上場時価総額で上回ったという象徴的な出来事がありました。12月7日時点の時価総額は、PDDが1863億米ドル、アリババが1815億米ドルとなっています。


PDDの好調の背景には、越境ECの「Temu(ティームー)」の成長があるとされます。Temuは低価格のアパレルや雑貨などが人気で、欧米やアジアで展開中。22年に9月に米国に進出し、今年7月には日本に上陸しました。中国初のアパレルEC「SHIEN(シーイン)」と比べられ、関連ニュースも増えてきたと思います。


ただ、PDDの大きな柱は依然、中国国内のECです。中国でPDDのイメージを聞くと、答えは「とにかく安い!」にほぼ集約されるでしょう。「団購」という共同購入スタイルが同社の売り。いわば「ネット上の知らない人とのワリカン購入」です。私もPDDのアプリで生活用品をよく買いますが、共同購入の表示をタップすると「購入成立まであと●人」のような表示が出て、ネット空間でのマッチングが始まります。中国では億単位の消費者が存在するので、よほど特別な商品でない限り「相手」が見つかります。なかなか見つからないときは、自身のSNS(微信=WeChatのモーメンツなど)に「共同購入者募集」などのリンクをアップし、自ら探すこともできるほどです。


前回も触れましたが、同社の好調の背景には新型コロナ禍に伴う封鎖生活の影響があると思います。都市封鎖(ロックダウン)などを通じてネット通販の注目度が高まりましたが、これまで使ったことがない人が意外と“ハマる”ケース、つまり新規顧客が増えたようです。特に、「ネット通販はタオバオ(アリババ系)か京東」と思っていた人が初めてPDDのアプリを開き、「すごく安い!」と感じてヘビーユーザーになった人も多いと言われます(実は私もその1人です)。


もっとも、知り合いの中には配送不備などを懸念し、PDDを敬遠する人がいます。私の場合はこれまで特段のトラブルがなかったので安心していましたが、先日頼んだサランラップで問題発生。3個頼んだ製品が小型の段ボール箱ごとペチャンコになった状態で届いたのです。製品自体は無事なので、クレームを出すまでもないと思いそのまま使っていますが、心の中では「次もこんな配送だったらどうしよう」と警戒感が高まったのも事実。同時に「まぁ、価格が安い分、交通事故のようなまれなアクシデントと思わなければ……」とも感じています。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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