中国現地Now!

春節映画からの岳飛ブームと聖地巡礼

観客動員7000万人超を誇る話題の映画


中国は春節(旧正月)を経てやっと新年がスタートしました。街も正月ムードから徐々に正常モードに移り、普段の生活が戻り始めています。


その春節連休中は、例年のように「娯楽の王様」と言える映画産業が盛り上がりました。1月21日から27日までの興行収入は前年同期比12%増の67億5920万元(約1284億円)まで膨らんでいます。確かに映画館は家族連れを中心に賑わっており、春節の新作を市民が楽しんで鑑賞していました。


春節公開作品の一番人気は「満江紅」です。日本でも有名な張芸謀(チャン・イーモウ)監督の新作。南宋と金の対立を背景とし、愛国的な武将の岳飛もモチーフにしたストーリーです。大がかりなアクションやロケシーンはなく、城内の密室を舞台にして描かれるサスペンス偶像劇という趣でした。1月22日に公開されるとネット上でも話題を呼び、2月2日までの観客動員数はおよそ7000万人。ちょっとしたブームになっています。


クライマックスは、岳飛作とされる有名な詩を兵士たちが暗誦するというシーン。映画のタイトルにもなった「満江紅」という詩は、中国人の多くが一度は聞いたことがある詩で、しかも愛国心に訴えかける内容のため、劇場内は感動の嵐。大いに盛り上がりました。


岳飛が愛国の英雄とするならば、彼を死に追いやって金との屈辱的な和議を受け入れた時の宰相・秦檜(しんかい)は売国奴とされています。市民の間では「極めつきの裏切り者」として憎悪の対象とすらなっています。浙江省・杭州の岳飛廟には、鎖でつながれ跪いた秦檜夫妻の像があり、市民はこの像に石を投げつけたりツバを吐きかけるというのが“定番”の行為になっています。少々乱暴な振る舞いに見えますが、それだけ嫌われているということなのでしょう。


今回の映画公開後にもひと騒動ありました。河南省・周口にある「太昊伏羲陵」という観光スポット。ここにも秦檜夫妻の像があるのですが、それに観光客が鉄板をたたきつけるという出来事がネットを賑わせました。恨み憎しみを全部ぶつけるという行為の究極的な部類に入りますが、何でも極端な中国人らしいと言えば怒られてしまうでしょうか。


私は同じ河南省・湯陰にある岳飛廟を訪れたことがあります。岳飛の実家にもほど近く、本場感が増すのですが、ここにももちろん秦檜の像が見られます。コロナ禍だったこともあるのでしょうか、さすがに唾を吐く人はいませんでしたが、観光客は忌々しい目でそれをにらんでいたのを思い出します。


 


「スラダン」聖地巡礼は中国人にも人気?


映画やドラマにインスパイアされた“聖地巡礼”も話題になっています。春節連休中は雲南省の大理や麗江などの観光地が大いに賑わいましたが、その理由の一つがドラマの舞台になったから。そのドラマとは、年初から芒果TVで配信された「去有風的地方」です。都会から来た女性がリゾート建設に挑むというストーリーなのですが、人気女優の劉亦菲(リウ・イーフェイ)が主演ということで話題になり、雲南省の壮大かつ美しい自然に魅了された視聴者も多かったようです。


昨年末、日本で大きな話題になった映画「THE FIRST SLAM DUNK」。人気漫画「スラムダンク」の映画版ですが、実はこの「スラダン」は中華圏で絶大な人気を誇ります。今回の映画も、香港、台湾に加え韓国でも大ヒットしています。中国でも公開されれば多くの観客が劇場に足を運び、プチブームになりそうです。


コロナ禍前のことですが、中国の知人(40代)が日本旅行に行ったときの思い出話が忘れられません。上海に帰って来た彼は開口一番、「感動した!」と言ってきます。家族旅行だったので、日本の自然や温泉、日本食や買い物を楽しんだと思っていたのですが、なんとメインは「スラダン」の聖地巡礼。漫画にも登場する、江ノ島電鉄の鎌倉高校前の踏切です。彼はそこで撮った写真を自慢気に見せてくれました。踏切をバックにポーズを撮る姿のなんと誇らしいこと! いやぁ、映画って本当にいいもんですね。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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