観光地に賑わいが戻ってきた
中国は4年ぶりの行動規制がない春節(旧正月)で盛り上がりました。法定休日は1月22日の春節元旦を挟む7日間(1/21~27)ですが、新年ムードは元宵節の2月5日頃まで続きそうです。
各地でいわゆる“民族大移動”が見られました。都市部から農村部への帰省客のほか、帰省先での家族旅行などのニーズが復活しています。春節前後の40日間で延べ10億人超が移動するとの見通しが出ています。2019年の半分程度にすぎませんが、高速鉄道や飛行機のチケットは予約しづらい状況でした。
春節は家族団らんの食事だけでなく、時間を見つけて近隣の観光地に赴く人が増えています。そのため、観光地の「人山人海(黒山のような人だかり)」状態がニュースやSNSで伝えられます。よく話題に上るのが世界遺産の黄山(安徽省)。今年の春節も市民が大量に押し寄せ、入場制限も行ったほどです。1月24日の観光客数は3万4000人余り。1日当たりでは18年の春節以来、過去最高の数字だったとのことです。山道はすし詰めで、数時間程度の“人の渋滞”ももはや定番。「来るんじゃなかった!」という嘆きの投稿がSNSで見られるのもお約束です。このほか、アモイのコロンス島、福建省の武夷山、陝西省西安の秦の始皇帝陵(兵馬俑坑)などの人気観光スポットが大いに賑わいました。
上海でも春節連休中の観光客は連日100万人超を数えました。繁華街の南京路や外灘(バンド)では方言を話す方も目立っていました。上海は昨年、都市封鎖(ロックダウン)の影響もあり消費と観光業界がマイナス成長。22年の小売売上高は前年比9.1%減、宿泊・飲食業売上高は同22.4%減と散々でした。春節の盛り上がりをきっかけにV字回復となるか注目です。上海ディズニーでは人気アトラクションが3~4時間待ちと、いつもの光景が戻っています。
一方、上海では春節連休中の地下鉄利用者数が例年より減少しています。21年と22年は2900万人前後でしたが、今年は2000万人程度と見積もられます。昨年と一昨年は「就地過年(その場で年越し)」というスローガンの下、帰省をあきらめて市内で過ごす市民が多かったのですが、今年は帰省ニーズが増えたため地下鉄の乗客が減ったようです。この数字からも人の流れがうかがい知れます。
「紅包」はスマホ送金も定番
さて、春節といえば「紅包(ホンバオ=お年玉)」です。中国では子供にあげるだけでなく、家族や友人同士で送り合うこともあります。10年ほど前から「微信(WeChat)」で気軽に紅包を送れるようになり、今や定番の送金手段です。この季節になると現れるのが、微信の「拝年紅包」という機能。相手先を指定してこの表示をタップすると、微信側がランダムにお年玉の額を選んでくれます。試してみたところ、1.66元、2.88元、6.66元、8.88元、9.99元など縁起の良い数字が出てきました。いずれも200円以下の小額なので、財布へのダメージは限定的。正式な紅包はハードルが高いけど、新年の挨拶代わりにちょっとした気持ちを送ることができる――。お金が全てではありませんが、中国ではこのような“付き合い”が大事になることもあります。もっとも、相手によっては「ケチ」と思われてしまうこともあるため、要注意ですが……。
もう一つ、春節は映画産業の書き入れ時です。今年も春節映画7本が封切りとなり、映画館は家族連れなどで賑わいました。連休中の興行収入は60億~70億元と見込まれますが、これは21年の71億元、22年の60億元に匹敵する規模。 “コロナ前”の19年の54億元はすでに上回っています。
ただ、中国らしい出来事もありました。春節映画7本のうち、卓球の中国チームをモチーフにした作品が公開2日間だけで上映停止。他の作品に比べて興行収入が芳しくなく、あっという間の撤退と相成りました。マーケティングをやり直し、2月に捲土重来、再上映を目指すとのことですが……。実は私はこの作品のチケットを予約していましたが、当日劇場に行って上映停止の事実を知らされました。映画館のスタッフは「代わりに好きな映画を観ていいよ」という、中国らしいユルい対応です。遠慮なく、興行収入ナンバー1の張芸謀(チャン・イーモウ)監督の新作を鑑賞しました。
街を行きかう人を見ると、上海などの都市部ではほとんどがマスク姿で、博物館や映画館ではマスクをずらしただけでもスタッフから注意されるほどでした。もっとも、地方部ではノーマスク姿が目立っていました。新型コロナの感染が一巡し、つかの間の解放感が警戒感を上回ったようです。一部では花火や爆竹も解禁され、ロケットランチャー型の花火を“ぶっ放す”光景がSNS上で多く見られました。今年の春節は賑やかな盛り上がりとともに幕を下ろし、2023年が本格的にスタートします。