大学新卒者数は1158万人
新型コロナ禍を受けた景気減速に加え、ゼロコロナ政策終了後の経済回復もやや息切れ気味の中国。社会では雇用問題が浮上しており、特に若年層の失業率の高さがクローズアップされてきました。2023年4月の失業率(都市部調査失業率)は、全体では5.2%(前月比0.1pt低下)と落ち着いていますが、16~24歳に限ると20.4%に跳ね上がります。前月より0.8pt悪化し、直近で最悪だった22年7月の19.9%を上回り、20%の大台に乗せてしまいました。
この若年層の失業率は毎年夏場、特に7月から8月に上昇する傾向にあります。学生の卒業・就職シーズンに当たるタイミングでやや高い数字になり、その後に就業が進んで失業率も落ち着いていくというのが大まかなパターンです。ところが今年は4月時点ですでに20.4%。このままいくと夏場にかけてさらに高くなってしまうかもしれません。
高い失業率の理由として指摘されるのは、やはり景気回復が芳しくないこと、とりわけ製造業の苦戦です。中国の製造業は輸出と関連深い労働集約型がまだまだメインですが、現地報道によると、この業態では今年1~3月期の就業者数が前年同期から56万人減少したとのこと。中でも若者の就業比率が比較的高い「PC・通信・電子」産業だけで31万人も減少しました。このほか、「紡織・アパレル」「皮革・毛皮」「文化・スポーツ・娯楽用品」など輸出依存度が高い産業でも雇用状況が悪化したようです。簡単に言うと、雇用の受け皿が縮小したということになるでしょうか。
一方、進学率の向上に伴い、大学新卒者数は年々右肩上がりです。10年の631万人から22年は1076万人に急増。今年は1158万人に上る見通しです。高学歴の次世代人材が増えることは社会にとって喜ばしいことでしょうが、産業構造の変化、すなわち「量から質への転換」が進まないうちは雇用のミスマッチも起きていそうです。もちろん若者世代には仕事の選り好みもあるでしょうし、就職難を受けて大学院への進学を望む学生も多いと聞きます。
また、公務員人気が高いのも最近の特徴。23年1月に行われた国家公務員試験では、3万7100人の募集に対して約259万人が応募しました。ここ10年で最も多く、競争倍率は70倍にも上りました。最も人気の高い職種の競争率は5800倍超となるほどです。このような時代だからこそ安定した職業を選ぶという行動は、日本など他国・地域と変わらないようです。
創業もつらいよ
若者世代の失業率の高さ、政府はどう見ているのでしょうか。国家統計局は5月16日の記者会見で「若者層の雇用の安定・拡大には引き続き力を入れていかなくてはならない」と説明。特に具体策までは踏み込まなかったため、聞きようによっては第三者的な見解にも思えました。続けて「経済回復と共に、特にサービス業の状況が改善し、雇用安定策の効果が現れるにつれて雇用状況は総じて安定的に推移するものとみられる」ともしていますが、とりあえず景気回復を祈るばかりといったところでしょうか。
発言内にある雇用安定策としては、国務院が4月26日に発表した通知が挙げられます。主なポイントは、「卒業2年内の大卒者、失業中の16~24歳の若者を雇用した企業に対し、一時的な補助金を支給」「政府機関・単位での大卒者採用を一定規模に維持」「国有企業に対し、若年層の新規採用を拡大するよう促す」など。中小企業が新規雇用を支援する融資を受けられるよう金融機関に支援を奨励することも盛り込まれました。つまりは「雇用確保の大号令」と捉えられるでしょう。政府側も必死です。
こんな中、就業形態も変化しており、「ギグワーカー」や独立・創業する若者も増えています。中華全国総工会(労働組合の全国的連合組織)は3月下旬、単発・短期の仕事に従事するギグワーカーが8400万人に上ると明らかにしました。全国の就業者数4億200万人の20.9%を占め、大半が農村出身者。いわゆる出稼ぎ労働者が多くなっています。職種は、配車サービスのドライバーや宅配便・フードデリバリーの配達員などが中心。中国語では「新就業形態労働者」となりますが、社会保険がなく長時間労働を強いられることが玉に瑕です。
私の友人も頻繁に仕事を変え、時には自分でビジネスを立ち上げたりしています。数年前に知り合った当時はメイクアップアーティストの見習いでしたが、次に会ったときは江蘇省の上海ガニ養殖場で住み込みのバイトをしていました。ネット販売も手掛けていたようです。その後は独立し、地方都市での理髪師、フードコートでの食堂経営などを経て、最近はライブコマースに手を出しネット通販のライバーになっています。
そんな彼女がSNS上で冗談交じりでつぶやいたホンネは「創業はもう疲れた!」。就職難、高失業率など中国も大変な状況になりつつありますが、一方でこの時代を力強く生き抜いていく中国人ならではの逞しさも感じられるところ。社会の変化にも注意しながら、推移を見守りたいです。