突然起きた水の買い占め
10月初頭の国慶節連休が明けた中国・上海で、にわかに飲料水の買い占め騒動が起きました。スーパーやコンビニでは大型ボトルの商品は軒並み売り切れで、小型ペットボトルの品がある程度。ネットスーパーでも在庫切れが相次ぎ、エビアンやペリエなど高価なミネラルウォーターしか残っていませんでした。
この背景には、記録的な干ばつで長江流域の水位が下がり、上海近辺で海水が水源まで逆流した現象があるようです。地元の水道当局は、ダムからの取水停止、市内での給水制限計画を発表。これを受け、市民の間で水の供給や水質への不安が高まり、一気にパニック的な「水買い」に走ったということのようです。
私もこの一報が伝えられた10月12日、ネットスーパーの盒馬鮮生(フーマー)のアプリを開いて「水」を検索してみたところ、昼前なのに揃って売り切れ状態。家の近くのコンビニでも品不足が起きていました。4月と5月に過酷な都市封鎖(ロックダウン)を経験していることもあり、不安感が一気に高まりました。もっとも、翌日になると飲料水の販売は通常モードに戻り、今回の“水騒動”はあっけなく終わりました。まだまだ油断はできませんが……。
水にまつわるエトセトラ
さて、中国で生活していると、良きにつけ悪しきにつけ水関係の話題が尽きません(もちろん悪い問題の方が多いのですが)。特に悩ましいのは、水周りがトコトン弱いこと。五つ星の高級ホテルで室から水が漏れ、トイレがうまく流れないケースが散見されます。自宅マンションの洗面所では、下水が逆流したような悪臭が漂うこともありました。大雨が降れば地下鉄駅では雨漏りが見られ、街には絶望的な水たまりが無数に広がります。そもそもの設計が悪いのか、雨が想定外の大きさなのかはよく分かりません。
「黄河を制する者は天下を制する」――。このような言い伝えがあるように、中国では治水の重要性と関心度が非常に高くなっています。中国最古の王朝である夏を開いた禹(う)王は、黄河の治水事業に成功して人々から尊敬されたといいます。今も政府の重要官庁として水利部(省)があるほど。水との関わりは深く、そして長いのです。
中国では洪水や干ばつは毎年のように起きています。2年前の2020年には、長江流域を中心に浸水や洪水、土砂崩れなどの水害が相次ぎました。同流域の平均降水量(6~7月中旬)は1961年以降で最多となり、被災者は約4000万人に上ったとのことです。日本でも「三峡ダムが決壊するのでは」という懸念が伝えられたと思います。
当時、洪水関連で「堤防を爆破」というニュースを見ました。「溢れるなら 壊してしまえ この堤防」というヘタな川柳を言っている場合ではありませんが、爆破とはなんと豪快、いや乱暴な!と思ってしまいます。
ただ、前述の禹王にも通じるところがありそうです。実は禹王の父、鯀(こん)も治水に取り組みましたが、「堙(いん=ふさぎとめる)」と「障(さえぎる)」というやり方でうまく行きませんでした。禹王はこれを引き継ぎながらも、「疏(水の流れをよくする・分けて通す)」と「導(みちびく)」という方法で成功しました。水を力ずくで止めるのではなく、必要な所に導いていくというやり方です。この発想が現代にも生きていた……のかもしれません。
経済関係の話では「南水北調」という国策もあります。「南方地域の水を北方地域に送り慢性的な水不足を解消する」というこの巨大プロジェクトは、「西部大開発」の目玉として位置付けられています。また、通称「水十条」(2015年策定)と呼ばれる水質汚染防止政策も重要。汚染物質排出の抑制や工業用水の循環利用などが盛り込まれ、環境問題がこれまで以上に重視されています。
投資に結び付けると、株の世界では投資を「水」に例えて表現することもあります。中国と香港の相互取引であるストックコネクト。「中国⇒香港」への投資マネーは「北水」、逆に「香港⇒中国」へは「南水」と呼ばれています。我が証券業界は「水を運ぶ商売」を手掛けているとでも言えましょうか。何かにつけて水とは切っても切れない関係にあるようです。