黄色姿の配送スタッフ
中国の街で必ずと言っていいほど見かける黄色の服をまとった配送スタッフ。広い道路も、狭い路地も、時には歩道の上も、電動バイクを駆使して猛スピードで走っていきます。彼らは、フードデリバリー最大手の美団(メイトゥアン、03690)の配送員。同社は、その使い勝手の良さとスピード性で成長してきました。ブルーを基調とするアリババ集団(09988)系の餓了麼(ウーラマ)と共に、中国の「出前産業」をけん引しています。
美団が先ごろ発表した23年7~9月期決算は、売上高が前年同期比22.1%増の764億6690万元、純利益は同195.4%増の35億9323万元でした。特殊要因を除く調整後利益は同62.4%増の57億2739万元なので、簡単にまとめれば「実質6割増益」となるでしょう。
改めて美団の概況を説明すると、以下のようになります。
◇中国のネットサービス大手
◇共同購入サイト「美団網」と口コミサイト「大衆点評網」が合併し2015年成立。18年9月上場
◇フードデリバリー「美団外売」は業界最大手。ホテル・旅行予約、共同購入「美団優選」、生鮮食品EC「美団買菜」、シェアサイクル「美団単車」、配車サービス「美団打車」、即時配達EC「美団閃購」などを展開
同社の売り上げは大きく2部門に分けられます。
◇コア商業部門(全体の約75%)
フードデリバリー、口コミ・ホテル・旅行予約、美団閃購、民宿、交通チケット
◇新業務(同約25%)
美団優選、美団買菜、飲食サプライチェーン(快驢)、配車、シェアサイクル・バイク、充電宝、飲食店管理システム及びその他
売り上げの大半を占めるコア商業部門の中心は、フードデリバリーと美団閃購です。後者の内実は「即時配達EC」となりますが、文字通り、「購入商品をすぐに運んできてくれる」サービス。アプリ上で近隣のコンビニエンスストアや薬局などの商品をオーダーし、それを出前のように素早く届けてくれるイメージです。
美団はこのフードデリバリーと美団閃購を合わせて「即時配送」業務と位置付けています。かつてはフードデリバリーは独立した売上構成項目で、総収入の5~6割を占めていたのですが、出前でも即時配達ECでも配送スタッフは同じ人。その関係もあるのでしょうか、この区分を取っ払い、22年4~6月期から「即時配送」という業務項目でまとめています。
即時配送の取引件数は、直近の23年7~9月期で61億7940万件まで膨らんでいます。前年同期比では23.0%の増加。同四半期においては、フードデリバリーの受注件数が7800万件超と史上最多を記録した日もありました。即時配達ECも最高で1300万件超に上ったとのことです。各種デリバリーは生活のあらゆるシーンに溶け込んでいると言っても過言ではないでしょう。
もっとも、同社の創業者である王興CEOは、年末にかけての10~12月期はフードデリバリー事業の成長率が7~9月期のそれを下回ると慎重な見方を示しています。その背景として、10月と11月が温暖だったことを挙げていました。端的に言えば、「寒いから外出を控えて出前を頼む」という必要性が低下したということでしょう。特にオフィスワーカーでその機運が高まったようです。また、昨年までは「ゼロコロナ政策」の影響で外食が控えられる傾向にありましたが、今年はその反動もあり、市民は「リアル飲食店」での消費を好む傾向にあるとのこと。確かに、昨年の今頃は何でも出前に頼っていた気がしますが、今年は行動制限もないため、外食の機会が増えた気がします。
薬からスプレーまで何でもござれ
さて、ここからは現場ならではの実体験を紹介したいと思います。フードデリバリーは全国各地で展開されており、旅行や出張先のホテルでの「1人メシ」で大変重宝します。それに加え、ちょっとした買い物をしたいときにもデリバリーサービスは役に立ちます。
先日、河南省・開封を訪れた時のこと。数日前から患っていた口内炎が、旅の途中でかなり悪化してしまいました。ホテルにチェックインし、薬局を探すのも面倒くさいなぁと思いながら、手は自然とスマホ上の美団アプリをタップしていました。口内炎用の薬を検索すると、近くの薬局で売っているよう。すぐさま注文し、デリバリーを手配しました。
待つことわずか30分。ホテル内で活躍する配送ロボットが部屋の前まで薬を届けてくれました。これで一安心。価格ですが、様々な割引が適用され、定価22.8元のところなんと1.9元(90%超OFF!)。配送費は3元、包装費は0.5元でしたが、「新規顧客」ということで全てゼロ。なかなかお得な買い物をしてしまいました。なお、同じタイミングでオーダーした夕食より先に届いてしまうスピードぶりでした。
こうなると、旅先でもちょっとした日用品なら何でもデリバリーできます。「なんとものぐさな」と言うことなかれ。不慣れな土地を歩き回り欲しいものを探すよりも、スマホ一つでオーダー&お届けの方がラクチンなんです。
私の知り合いは、地下鉄の荷物検査で没収されたヘアスプレーを、ホテルに着いてから再度購入していました(そもそも地下鉄に乗るだけで生活用品が没収されるのはいかがなものかと思いますが……甘粛省・蘭州の地下鉄です)。また、コンタクトレンズの洗浄・保存液を現地で調達した人もいます。深夜にもかかわらず注文から20分ほどで届けてくれたそう。この上なく便利です。
スプレーは甘粛省・天水、コンタクトは江蘇省・宿遷での出来事。大都市だけではなく、地方都市でもデリバリー網が発達しており、早朝でも深夜でもすぐに届けてくれるスタッフがいるのです。その背景には、過酷な労働体系や、単価が安いため量で稼ぐしかない配送事情などもあるでしょう。ただ、ユーザー側は買い物方式の選択肢が増え、いつでもどこでも手に入れられるのが当たり前の時代になってきました。これに慣れるとリアルの買い物からますます離れてしまう気もしますが、果たして……。