中国現地Now!

“ポスト・コロナ”の中国、外国人の目にはどう映る?

EVブランドの多さに驚き


中国の「ゼロコロナ政策」の終了から約1年。国・地域を跨ぐ出張や旅行が徐々に回復してきました。フライト数の少なさや査証(ビザ)取得の煩雑さなどから“完全復活”とまでは行きませんが、それでも中国の空港や街中で外国人の姿を見かけることも増えてきました。それでは、外国人の目には“ポスト・コロナ”の中国はどのように見えているのでしょうか。私の最近の経験談を紹介させていただきます。


先日、欧州出身の金融マン(シンガポール在住)と話をしました。彼はかつて、年に数回は出張で中国を訪れていましたが、ここ数年は新型コロナ禍の関係で足が遠のいていました。今年、約5年ぶりに訪中した彼に上海の印象を聞いてみると、「街には見たことも聞いたこともないEV(電気自動車)が走っているね!」と驚いた顔をしていました。中国ブランドのEVと言えばBYDの名前が真っ先に上がりますが、このほかにも老舗から新興・中小まで多数の企業やブランドを目にします。


最盛期は300程度の企業・ブランドがあったとされる中国の新エネルギー車市場。ここ1~2年ほどで淘汰が進み、昨年は123社(販売記録ベース)に集約されたと言われます。それでも多いことに変わりはなく、確かに「見たことも聞いたこともない」ブランドがあるとも言えるでしょう。ここ数年間で爆発的な成長を遂げ、数多くのプレーヤーが誕生(そして淘汰)した中国市場は、久しぶりの訪中者にとってかなり新鮮に見えたようです。


また、中国現地で、欧米やアジア諸国・地域の機関投資家たちと企業視察ツアーに参加しました。20人ほどの参加者の出身地は、米国、英国などに加え、カタール、タイ、マレーシア、シンガポール、韓国、台湾、香港など国際色豊かなもの。日本からの参加者は残念ながら私だけでした。企業側との交流時はもちろん、バス移動時や食事の際は英語や中国語があちこちで飛び交い、かなり盛り上がりました。東南アジアからの参加者はほとんどが華僑で、中国語でコミュニケーションを取れるのはかなりのメリットです。


バスで隣の席になったタイの投資家は、2017年頃に中国に短期語学留学していたそうです。今回は“コロナ後”で初めての訪中。彼曰く、「17年や18年の中国には毎日のように新しいモノやサービスが出ていた。ただ、最近はその勢いが失われていると感じる」とのことです。確かに当時、キャッシュレスや配車アプリ、シェアサイクルやフードデリバリーなど様々な新しいサービスが登場し、市民生活を活性化させていました。もちろん今もそれらのサービスはありますが、すでに生活の一部になっており、落ち着いている感はあります。ロボット配送やライブコマースなどの次世代サービスも出てはいますが、彼にとってはそれほどの高揚感はないようです。



コロナを経て感じた中国経済の変化


台湾からの投資家とは「中国の市民は自信を失っているのでは」「高齢化・少子化が心配」などの話をしました。日本や台湾も経て来た道を中国がこれから辿っていくと思われますが、変化スピードが早すぎるのでは、との意見でも一致しました。彼女は中国各地に親戚や友人がおり、様々な地元の情報やネタも入ってきますが、それらから判断して中国経済が元気を失いつつあると見ているようです。


マレーシア人の女性は、中国経済や企業の成長にやや懐疑的な見方を持っていましたが、それでも投資意欲はあるようでした。もっとも、アジア全体のポートフォリオから中国の割合を減らしており、当然ながら現実的な投資を心がけているとのことです。


その意味では、中国に変わる市場として日本のマーケットに対する関心が高かったです。私は“唯一の日本人”として、彼らから「日本市場の直近の株価上昇の背景」「バブル&デフレ経済の経験は中国の参考になるか」などの質問を多数受けました。また、一部投資家はSBIや楽天など日本を代表するネット企業の状況などに興味を持っているようでした。


話を中国の見方に戻すと、世界の投資家は、全般的にはマクロ経済やデフレ傾向は仕方ないこととして捉えつつ、ネット・IT・AI関係、新エネ車周り、質の高い消費セクターを中心にウォッチしていく姿勢でした。感じられました。「消費降級」(消費のダウングレード)も話題になり、コストパフォーマンス重視の企業の成長性に期待しているようです。成長著しい茶飲料(ドリンクスタンド)業界の大手企業を訪れましたが、ハイエンドよりもローエンド~大衆的ブランドへの注目度が高いことも実感しました。


さて、繰り返しになりますが、日本人の参加者は私だけ。日本からの出張者もウェルカムということでしたが、様々な理由で訪中に二の足を踏んでいる企業が多いとのことです。ただ、同じ外国人でも、欧米や東南アジアからの訪中はそれなりに増えています。彼らとの交流時、日本で過度に懸念されている「反スパイ法」などの話題は一切出ませんでした。危険を冒す必要があるとは思いませんが、外国人が中国に戻り始め、良いことも悪いことも含め中国を見直そうとしている中、日本はこの流れからやや出遅れているような気がしたのも事実です。

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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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