一番初めに覚える中国語
中国に来たビジネスマンや駐在員が最初に覚える中国語は何でしょうか。ビジネス上では「発票(ファーピャオ)」が重要になってきます。日本語でいうと「領収書」。出張時などはいつでもどこでも、経費請求のためにこの「発票」という言葉を使います。
中国では領収書は「発票」と「収据」に大別されます。前者は税務局の管理下にある正式な金銭受払証憑、後者はある程度自由に発行できる受領書的なものです(日本的な領収書とでも言えましょうか)。会社の経費請求などに用いるのは前者。商取引行為を証明するものという意味で請求書の役割を果たすこともあります。
発票は「税務局の管理下にある」と書きましたが、この目的は政府が増値税(付加価値税)や営業税を漏れなく徴収するため。脱税が多いからこその制度設計という見方もできるでしょう。発票用紙は、日本の領収書のように文房具店などでは買えず、税務局から購入する必要があります。デジタル化の流れを受け、税務局のサイト(プラットフォーム)を通じた電子版発票の作成も増えてきました。
発票発行の際には発行側と受取側双方の納税者識別番号が必要です。中国にある法人や代表処(駐在員事務所など)はいずれもこの識別番号を持っています。ホテルのフロントやレストランのレジで「この社名と番号でお願いします」とスタッフに申し出て、発票を発行してもらうイメージです。番号がないときは宛先に「個人」と書いてもらうことも可能。また、公共交通機関やスーパーなどでは受取側の番号記載がない簡易的な発票が用いられることもあります。
デジタル化で格段に便利になった発票事情
発票の説明ばかりになってしまいましたが、ここからは実際の活用シーンをいくつか挙げてみます。
前述の通り、出張先のホテルではチェックアウト時に発票の発行をお願いします。以前は会社名と識別番号(18桁!)を口頭で伝えたり、紙に書いてフロントに渡していました。そこからスタッフが発票発行機(端末)に情報を打ち込んで印刷します。受け取る際には記載事項が間違っていないか要注意。番号が一つでも間違っていたら証憑として認められないこともあり、再発行など手間がかかります。
この一連の作業は結構な時間がかかるもの。私はそれを見越し、予定よりも早めにチェックアウトすることが習慣になっていました。ところが急いでいる時に限ってトラブルが起きてしまいます。以前、発票発行がスムーズに行かず、フロントで15分ほど待っていたところ、スタッフから「すいません。機械が壊れたので発行できません」と伝えられました。後日郵送するとのことでしたが、本当に届くかいささか不安だったことを覚えています。
また、レストランでの接待時に発票発行をお願いすることもあります。お酒が入ると、会社名や識別番号を伝える際にはろれつが回らないケースも多く、なかなかスムーズにいきません。これを避けるために、早めの会計と発票発行をお勧めします。
さて、このような面倒さも近年大きく改善してきました。アプリやQRコードを活用してワンタッチ・ワンスキャンで発票発行ができるようになったのです。例えばホテル。フロントに掲げられている発票発行用のQRコードをスマホで読み取り、開いた画面で社名や識別番号を入力します。それから「送信」「申し込み」などをタップすると、データがフロントの発票印刷機に飛ばされ、すぐに発行されます。手間がだいぶ省けました。
また、テンセントの微信(WeChat)やアリババの支付宝(アリペイ)などには発票管理ツールが実装されています。前者は「微信発票助手」、後者は「発票管家」と言いますが、いずれも識別番号を登録しておくことができます。それらのデータを含むQRコードを自身で生成し、フロントやレジのスタッフに見せる(専用端末で読み取る)だけなので、発票発行・印刷の手順が楽になりました。もちろん、メールやショートメッセージで電子版発票が送られてくることもあり、様々な使い方ができます。
面白い場面にも遭遇します。以前、タクシーを利用した時のこと。降車時にメーター横からロール紙で出てくる簡易領収書を、ドライバーから「ほらよ!」とばかりに渡されました(写真参照)。しかも私の分だけでなく、その前に乗った数人分もまとめて。「いや、私のだけで結構ですが……」と言いかけたところ、彼曰く「損するものじゃないからあげるよ。経費請求で使えるでしょ?」。妙な親切心?もあるものです……。
たかが発票、されど発票。ゼロコロナが事実上終了した中国では、これから出張や接待の機会が増え、数多くのシーンで「ファーピャオ、ファーピャオ」と連呼する姿が見られることでしょう。