中国現地Now!

「有軌電車」でGO! 着々広がる中国の都市交通網

地方都市を軽やかに走り抜けるLRT


先日、江蘇省の淮安(わいあん)市を訪れました。上海から高速鉄道で最速2時間半ほどで着きます。周恩来元首相の出身地として知られ、また「項羽と劉邦」の時代の著名武将、韓信の故郷としても有名。現在は人口約450万人を抱え、三線級都市という位置付けです。


この地方都市の街中を歩いていると、LRT(次世代型路面電車)らしき乗り物を見つけました。低床式車両が道路の真ん中を静かに、そしてスムーズに駆け抜けていきます。1路線のみで、営業キロ数も20.07kmと長くはないものの、2015年の開業時から市民の足として活躍しているよう。各乗降場には十分な幅のホームが整備され、「停留所」というより「駅」という趣きでした。


私も早速乗ってみました。運行間隔は15~20分ほど。若干の間延び感もありましたが、ホームの電光掲示板には「あと●分で到着します」としっかり表示されており、それほどストレスなく待ち時間を過ごせます。料金はどこまで乗っても一律2元(約40円)。市内バスの一律1元(約20円)と比べると2倍です。とは言え、この料金で遠くまで移動できるのはありがたい限り。支払いはもちろんスマホやQRコードで行えます。


路線の大部分は、大通りに沿った直線が多く、揺れもさほど感じませんでした。それほど飛ばすわけではなく、周りの自動車と同じくらいのスピード。週末だったので、家族連れや若者のグループも多く乗り込み、結構混雑していました。交差点でのカーブの際、つまり自動車と走行位置が重なるエリアには複数の係員が常駐しており、旗や笛を使いながらドライバーに注意を促し、LRT優先の合図をしていました。交通ルールやマナーがやや曖昧な中国では、このようなマンパワーでの誘導も重要です。


淮安は決して派手な街ではなく、よく言えば落ち着いている、別の言い方をすればオールドスタイルの雰囲気もうかがえます。その街中をモダンなLRTが走っているのは新鮮な光景でした。昔ながらの街並みが残る清江浦エリア、市内随一の観光スポットの周恩来紀念館、買物客や家族連れでいつも賑わっているショッピングモールの万達広場などを通るため、乗っているだけで大まかな市内観光ができるほどです。


 


都市交通は地下鉄が中心


さて、中国の都市交通事情を見てみましょう。これまで述べてきた淮安のLRTは、正確には「有軌電車」と区分されます。中国城市軌道交通協会によると、北京や上海、広州などの大都市をはじめ中国22都市で運行されています。総延長は564.77km。日本の路面電車(軌道法に基づくもの)の総延長は約220kmですから、その2倍以上になります。最長営業距離を誇るのは瀋陽市の102.61kmで、最短は天津市の7.86kmです。


ただ、これらの比較はそう単純ではないかもしれません。中国には様々なタイプの都市交通があり、素人目には区分が曖昧なものもあるからです。


中国城市軌道交通協会のデータを参考に、主な都市交通をまとめてみます。

(数字は22年末時点)


城軌交通(都市軌道交通) 総営業キロ数:1万287.45km

◇地鉄(地下鉄):8008.17km(全体の77.84%)

◇市域快軌:1223.46km(同11.89%)

※空港連絡線、通勤路線など営業距離及び駅間が比較的長い路線

◇有軌電車:564.77km(同5.49%)

※路面電車、LRT的位置付け

◇軽軌:219.75km(同2.14%)

※地下鉄と似たような位置付け。1時間当たりの最大輸送量は1万~3万人程度(地下鉄は3万人以上)

◇磁浮交通:57.86km(同0.56%)

※リニア方式


「有軌電車」と「軽軌」などを正しく分類できる人は少ないでしょう。一般市民は何でも「地鉄」「電車」と言うことが多いので、そもそも種類にこだわる必要はないのかもしれません。乗車して移動できればいいだけなのですから。


このほかにも「跨座式単軌」という交通機関もあります。漢字から想像できるように、いわゆる跨座式モノレールです。中国では重慶市と蕪湖市(安徽省)で運行されています。重慶は中国の都市モノレール発祥の地で、05年に開業しました。日立製作所が技術供与したことでも知られています。山や崖が多く高低差が大きな市内を高速で走り抜けるモノレールは今や観光資源の一つ。駅が建物の中にあり、まるでビルを貫くように見える李子●駅(●は土へんに覇)は写真映えするスポットで、モノレールの通過と合わせたベストショットを狙う観光客でいつもごった返しています。



都市交通全体の8割弱を占める地下鉄は、今後も路線網が増える見通しです。全国の計画をまとめると、24年には総営業距離数が1万kmを超え、26年には1万3000kmに近づくとされています。特に内陸部の地方都市で建設が進んでおり、中小都市に行けば行くほどピカピカの地下鉄駅や車両を見ることができます。値段も数元程度と良心的なので、市民の足として活躍しています。


中国ではこれまで、出張や旅行に行く際、空港や鉄道駅から市内までのアクセスに頭を悩ませることが多かった気がします。タクシー乗り場には長い行列ができ、重い荷物ではバスに乗るのも不便。ところが今では、ライドシェアなどに加え、地下鉄などの都市交通も空港や駅に乗り入れるようになり、便利さが格段に増しています。移動の重点が「点から点」から「線」や「面」に広がっており、今後も市内交通ネットワークの拡充がさらに進んでいくでしょう。





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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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