“ぼっち鍋”もお構いなく
先日、河南省の地方都市に出かけました。夕食を食べようとショッピングモールのレストラン街に行きましたが、1人だとなかなか適当な場所が見つからないもの。このような場合、結局は麺や水餃子、ファストフードなどに頼ってしまいがちです。しかし、それまで3食続けて地元の麺を食べていたので、何か他のものはないのか……と思っていたところ、お馴染みの看板に目が行きました。その名も「呷哺呷哺(しゃぶしゃぶ)」。入り口で「1人です!」と告げて迷わず入店。久しぶりの鍋にテンションも上がります。週末ということもあり、18時過ぎには満席状態となり、入店の列ができるほどでした。
「しゃぶしゃぶ」は、その名からも分かるように鍋料理のレストランです。「呷哺呷哺」はその当て字になります。台湾出身の賀光啓氏が1998年に中国で立ち上げたブランド。当初は「ファストカジュアル・バータイプの台湾式火鍋」という目新しいコンセプトを銘打っていました。つまりは、カウンター席形式の一人鍋屋さんです。
台湾には日本の牛丼チェーン店のようなカウンター席のみの鍋レストランが多くあり、気軽に一人鍋を楽しむことができます。私も台湾で働いていた時はよくお世話になりました。残業で帰りが遅くなった時、中途半端な時間帯でもしっかり食事を楽しむことができます。一見、寂しそうにも感じられますが、一人で鍋をつつくのもなかなかいいものです。
中国の「しゃぶしゃぶ」は、カウンター席のみの店舗もあれば、テーブル席とのハイブリッド型、もしくはテーブル席のみという店もあります。モール内やビル地下の食堂街などでよく見ます。中国全土で801店舗を展開中(2022年末時点)。そのうち、301店が一線級都市(北京、上海、広州、深セン)にあり、残りは地方都市に分散しています。私は、北京のほか、煙台(山東省)、濮陽(河南省)、楡林(陝西)など地方の店舗で食べたことがあります。地元グルメや濃い味の料理で胃が疲れてしまった際、食べ慣れた鍋料理は重宝するものです。
注文の仕方は様々ですが、セット定食を頼むのが定番でしょうか。1人前が60元(約1140円)程度からあり、鍋底(鍋のダシ)や肉の種類などが選べます。野菜や麺も付いてきて、足りなければ単品で追加することもできます。一人用の鍋で楽しむことが多いですが、ファミリー層のテーブルでは大きな鍋に変更し、皆で仲良く食べることもできます。
オシャレ系の「湊湊」も人気
「しゃぶしゃぶ」の運営母体は「呷哺呷哺餐飲管理」という香港上場企業です。同社は近年、「湊湊(ツォウツォウ)」というサブブランド店を都市部中心に展開中。こちらは言わば「オシャレ系火鍋レストラン」という位置付けで、客層は若者が多く見られます。シックな店構えで照明もやや絞り気味。火鍋屋特有の賑やかさが残るものの、落ち着いた雰囲気も醸し出されています。
こだわりのティードリンクを提供しているのも特徴で、飲み物のメニューだけ見ると立派なカフェのようです。中国人は甘いミルクティーが大好きで、それを片手に鍋をつつく光景も見られます。あまり合わない組み合わせに思えますが、現地の人はそれほど気にしていないようです。むしろ、「オイシイお茶まで提供する火鍋店」というコンセプトで受けているよう。ドリンクだけで30元(約570円)ほどするので、料理と合わせると結構な値段になります。客単価を比べると「湊湊(ツォウツォウ)」は150.9元、「しゃぶしゃぶ」は63.9元と大きな差(いずれも22年)。オシャレで儲かるサブブランドと言えるでしょう(物価水準が高い香港・シンガポール店が全体の顧客単価を若干引き上げているという事情もあるようです)。
呷哺呷哺餐飲管理の22年の売上高は47億元。ゼロコロナ政策による店舗閉鎖や外食控えが影響し、前年比で約23%の減収でした。火鍋最大手の海底撈(ハイディーラオ)の売上高は347億元ですので、その約7分の1というイメージです。海底撈は中国全土で1349店、呷哺呷哺餐飲管理は1026店(しゃぶしゃぶ801店、湊湊204店など)を運営中。数では大きな差はありませんが、前者は本格的な火鍋レストランですので、店舗ごとの売上規模が異なってきます。
「しゃぶしゃぶ」という店舗名は発音や語呂もよく、日本人なら親しみを持ってしまうでしょう。実際の味は「中国風」ですが、キノコ味など薄めのダシを選び、醤油系の調味料で食べれば、日本の鍋に寄せた食べ方もできます。外食で困った時の「しゃぶしゃぶ」レストラン。私の中では、大変お世話になる店の一つにまで昇華しています。