倒産・閉店からの夜逃げ?
上海で行きつけの足つぼマッサージ店が最近、約3カ月ぶりに営業を再開しました。店内改装とのことで5月から一時閉鎖。この間、店や担当者からメールで連絡をもらっていたのですが、脳裏に一抹の不安があったのも事実です。そう、このまま店を畳んでしまうのではという懸念。万が一にでもそんな事態になっていれば、前払いした私のお金はどこに行ってしまったものか……。
サービス産業において、企業や店舗の突然の倒産・閉鎖は往往にしてあります。中国の場合、昨日まで普通に営業していた店が、次の日に行ってみると空っぽで「夜逃げ」状態になっているケースがよく見られます。私も同じような事態を何回も目の当たりにしてきました。
先日は河南省で自動車の4S店(ディーラーショップ)が突然閉店したとのニュースがありました。高級車「キャデラック」の専門店です。どうやら半年ほど前から金欠状態に陥っていたよう。自動車購入者の中には、メンテナンス代の前払いチケットを買っていた人もいましたが、店からは人が消え、担当者にも連絡がつかず、ほぼ泣き寝入り状態のようです。同じような被害に遭った人が100人ほどいるらしく、当然のことながら不満の声が高まっているとのことでした。
このような「倒産・閉店→夜逃げ」は、美容院、マッサージ店、スポーツジムなどの業態でよく見られる気がします。いずれも客に割引チケットなどを買わせるプリペイド方式を行っているところが多いです。突然閉店の憂き目に遭い、怒りの声を出す被害者の姿を多く見てきました。最近では幼稚園、プール教室、レストラン、はたまた金融商品販売会社などで同様の例が報告されています。
企業情報サイトの天眼査によると、飲食業における今年上半期の新規企業数(登記ベース)は134万6000社でしたが、閉鎖・倒産に追い込まれたのも105万6000社に上ったとのことです。特に1月(春節=旧正月前の年末に当たる時期)の倒産は17万2800社で、前年同月比211.6%増でした。
資金繰り悪化との戦い
今年4月、上海で「城市超市(シティショップ)」というスーパーの倒産が話題になりました。上海と北京で10店舗ほどを運営し、私もよく訪れていた老舗。商品全体の80%が輸入品で、デリカコーナーも充実しており、評判は比較的高かったです。ただ、近年はネットスーパーの台頭で、客足は目に見えて少なくなった印象もありました。
城市超市は4月15日をもって何の前触れや通知もなく営業を終了しました。翌16日にネット上で閉店のニュースが出回ったので、近くの店舗を訪れてみると、エントランスが鍵で頑丈に閉められて中は真っ暗な状態。まさに「夜逃げ」状態でした。従業員の一部は何も知らずに出社して、その場で倒産を知るということもありました。
ここでも問題になったのは前払いシステムです。「預付カード」「儲値カード」などと呼ばれるプリペイドカードに予め一定のお金をチャージしておき、支払い時にそのカードを使うと割引やポイント加算などの特典があります。城市超市は倒産に際し、顧客に対して「返金はしない」という非情な通告を行いました。商品と交換できるという救済策もありましたが、店舗はすでに閉鎖しているため、郊外の倉庫のような場所で受け付けるという面倒くさいもの。果たしてどれくらいの顧客がこの救済策を使ったか定かではありませんが、いずれにせよ損をするのは客の方という結果は変わらないようです。
そしてこちらも大きなニュース。料理教室を展開するABCクッキングスタジオが7月末をもって中国全12店舗を閉鎖しました。予告なしの倒産・閉店で、ネット上で大きな話題になりました。閉店を告げる張り紙には「入不敷出」(収入が支出に追い付かない)と正直に書かれており、資金繰りがかなり悪化していたようです。前払いのチケット代は全額返金するともされないとも、情報が錯綜しています。
割引商法にあふれる中国ですが、それなりのリスクがあることも「中国あるある」と言えそうです。プリペイド方式でよく見るのが、一回のチャージ額を大きくすればするほど買物時(サービス利用時)の割引率が大きくなるというもの。極端な例えを出すと「1000元チャージで10%割引、5000元チャージだと50%割引」とでもなりましょうか。マッサージ店では、5000元をチャージしておけば1回200元の料金が半額の100元で済むというわけです(チャージした5000元から100元が引かれる)。そのため、受付の担当者や技師から前払いの勧誘の“圧”が強く、断るのはなかなか難しくなります。「また次回」とでも言おうものなら、「こんな割引を利用しないなんて損ですよ!」と強めに指摘されるのがオチです。
一方、相手の立場になると、とりあえず手元にキャッシュを置いておきたいという考えがあるのでしょう。このご時世、ビジネスでは「資金繰り」が一番のキーワード。もちろん前払い金に手を付けるわけにはいかず、分別管理が必要なのは言うまでもないですが、何とか手元資金を回して営業を続けていく自転車操業状態のサービス業も少なくないと思われます。