中国現地Now!

中国人はアリババ株を買えないの?

膨らむ中国人の香港株買い


7月に入って勢いを取り戻している東京株式市場に比べ、上海と深センを中心とする中国株式市場は残念ながら低調な地合いが続いています。市場参加者も縮小気味で、7月3日の売買代金(上海+深セン)は5803億元と今年ワーストの低商いでした。6000億元を下回ったのは2023年9月以来のこと。これまでの最高額は15年5月28日に記録した2兆3615億元でしたので、現在はその約4分の1程度にとどまります。


不動産市場の不振が景気全体にネガティブな影響を与えている中国。これまでは「不動産低迷時は投資マネーが株式市場に流れ、株式市場低迷時は不動産に流れる」という、いわば資金の“循環物色”がよく見られ、マンション価格と株価指数が逆相関となることもありました。しかしながら、足元ではこの両方とも不振というダブルパンチ状態です。マネーは一体、どこに流れているのでしょうか。


そのヒントの一つとして、中国と香港の相互取引制度「ストックコネクト」の動向が挙げられます。海外投資家は同制度を通じて中国A株市場に投資でき、中国人投資家は同制度で香港市場への投資が可能です。


中国のゼロコロナ政策が解除された23年以降のデータを見てみましょう。23年前半から中盤にかけては「香港⇒中国」(海外投資家の中国A株買い)の投資が優勢でした。同年1月だけで1000億元超の買い越しとなり、その額は夏場にかけて2000億元超まで膨らみました。ところが、その後は中国のリオープン(経済再開)の不発、不動産市場の低迷、さらにはデカップリング(経済分断)などのキーワードに代表される対中包囲網の強化など、中国株投資にとってネガティブな情報が増えてきました。海外からの投資資金は23年後半にかけて縮小。今年に入ってやや戻してきたものの、直近では再び売りが優勢となっています。


一方、「中国⇒香港」(中国人投資家の香港株買い)の投資額は概ね右肩上がりで増えています。特に23年秋以降は、前述の「香港⇒中国」投資と逆の動きとなっており、足元でも買い増しの勢いがさらに強まっています。買越額は23年通年で2876億元でしたが、今年上半期(1~6月期)だけでそれを上回る3374億元となりました。


この背景としては、以下のような要因が考えられます。

◇中国本土市場の株価低迷を受け資金逃避先として香港市場が脚光を浴びた

◇中国証券当局が国際金融センターとしての香港の地位を高める措置を発表した(4/19)

◇売られ過ぎ感のあった香港上場のテック系銘柄が再注目された

◇通貨高(米ドルと連動する香港ドルの対人民元レート上昇)に伴う為替メリット

= 「外貨建て」の香港株資産を保有するメリット


「上海・深セン市場の低迷で業を煮やした投資家が香港市場に資金を振り分けている」とするとやや言い過ぎでしょうか。とは言え、中国現地の地場系証券や機関投資家と話していると、中国市場のパフォーマンスへの失望を感じ取れるのも事実です。「資金が逃げている」と言うとややネガティブな印象ですが、「アセットアロケーションの最適化を進めている」と捉えられるでしょう。



ストックコネクトへのアリババ組み入れなるか


この勢いは今後も続くでしょうか。ポイントとしてはアリババ集団(09988)の動向が挙げられます。


実は、中国人投資家はアリババ株を直接は購入できません。なぜなら、同社株は香港市場に上場しているものの、ストックコネクトの売買対象銘柄ではないから。中国を代表するテック系銘柄を中国人自身が買い付けられないという矛盾。これは、香港の上場ステータスが「セカンダリー」方式だからというテクニカルな理由によるものですが、同様に「中国人が投資できない銘柄」としては、京東集団(09618)、NIO(09866)、百度集団(09888)、トリップ・ドットコム(09961)、ヤム・チャイナ(09987)、網易(09999)などが挙げられます。


さて、アリババ集団は今年5月、香港の上場ステータスを「プライマリー」に切り替える手続きが8月末までに完了する見通しと発表しました。具体的に言うと、「香港市場を主要市場に変更し、米ニューヨーク証券取引所とのデュアルプライマリー上場の形に切り替える」となります。いずれにせよ、プライマリー上場へ切り替えればストックコネクト取引銘柄への組み入れ条件を満たす形になります。早ければ9月にも中国人がアリババ株を買える日がやってくるのでは、との見方も出ています。


前述の香港株買い増しの背景の中に「売られ過ぎ感のあった香港上場のテック系銘柄が再注目された」とありました。テック系銘柄の株価は政府規制などで一時期低迷しましたが、AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)などと関連付けて語られる息の長いテーマ株。有力株の多くは香港市場に上場しているため、中国人がストックコネクトを経由して買い付けるシーンがよく見られます。今年6月のストックコネクトの「中国⇒香港」投資では、テンセント(00700)、美団(03690)、小米集団(01810)が売買ランキングのトップ10に入っており、いずれも月間買い越しとなっています。


「中国人の間でテック株投資への人気は根強い」「アリババ集団が早ければ9月にもストックコネクト対象銘柄になる可能性がある」などの点から考えると、チャイナマネーの香港市場への流入が年末にかけてさらに勢い付く局面もあるでしょう。それが相場の後押し材料になるかどうか。中国・香港間のマネーの流れに引き続き注目が集まります。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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