中国現地Now!

変わる中国新エネ車業界、テック系が続々進出

「テック系+新エネ車」の融合


ここ数年、中国の新エネルギー車(NEV)市場が大きな話題になっています。市場拡大、新たなプレーヤーの登場、値引き合戦、輸出攻勢……。様々な側面から論じられてきました。その中でも今、中国現地で目立つのは新興勢力の台頭です。従来型のメーカーではなく、「テック系+新エネ車」の融合で活躍する企業が目立ってきました。百度集団(09888)やアリババ集団(09988)、華為技術(ファーウェイ)などが進出しています。


中国では、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を新エネ車として区分しています。ハイブリッド車(HV)は含まれていません。中国の2023年の新車販売台数は前年比12.0%増の3009万4000台に上りましたが、このうち新エネ車は同37.9%増の949万5000台で、全体の31.6%に当たります。政府が掲げていた「2025年までに新エネ車比率を20%まで高める」との目標を前倒しで達成した形です。新たな目標は、25年に45%、30年に60%と設定されました。


この成長著しい新エネ車市場で目立ってきたのがテック系企業です。「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)という概念下で自動車とテック界の親和性は高く、両者の融合はほぼ必然とも言えますが、特に中国ではこの動きが活発です。


以下、いくつかの例を挙げてみます。

◇ファーウェイ

賽力斯集団(セレス、601127)や奇瑞汽車など複数の老舗メーカーとEVを共同開発

◇百度集団(09888)

吉利控股集団と新型EV「極越(JI YUE)」を展開。自社開発の自動運転車両「Apollo RT6」を発表

◇アリババ集団(09988)

上海汽車集団(600104)などと高級EV「智己」を展開。吉利控股集団とスマートEV分野で提携

◇小米集団(01810)

北京汽車と新型EV「SU7」を共同生産。24年上半期中に発売見通し

◇滴滴出行(DiDi)

BYD(01211)や小鵬汽車(09868)とEV開発。配車サービス専用のEVが中心

◇テンセント(00700)

NIO(09866)、東風汽車などと自動運転やコネクテッドカー分野で戦略的提携


 


ファーウェイが進める「ブランド連合」


この中で特に積極的な動きを見せているのがファーウェイです。同社は19年5月に「スマートカーソリューション事業部(BU)」を立ち上げました。スマートカー向けの情報通信技術(ICT)部品、独自基本ソフト(OS)「鴻蒙(ハーモニー)」、自動車向けソリューション「HI(ファーウェイ・インサイド)」の提供が中心です。同社は「自動車は製造せず、広義のサプライヤー」という点を一貫して強調しますが、直近ではその立ち位置に微妙な変化が見られます。複数の自動車メーカーと提携して「ブランド連合」を形成し、共同開発車を続々と発表しているのです。実質的なスマートカー企業への変貌とでも言えましょうか。業界の新たな風として注目されています。


同社が「ブランド連合」と呼ぶエコシステムの中身を見てみましょう。まずは北京汽車(01958)との提携。北京汽車が出資する北汽藍谷新能源科技(600733)が、ファーウェイのソリューションが搭載された「ARCFOX極狐αT」を20年10月に発売しました。また、ファーウェイとセレスは独自OS「ハーモニー」を搭載した「問界(AITO)」を共同開発。ファーストモデルのSUV「M5」が22年3月に納車開始、後継のSUV「M7」は23年9月に販売が開始されました。中国各地にあるファーウェイの店舗に行くと、スマートフォンを押しのけるようにしてEVが大々的に展示されています。


“新興勢力”の販売ランキングを見ると、1位は理想汽車(02015)の3万1165台、2位はセレスの3万854台でした。NIOの1万55台、小鵬汽車の8250台を大きく引き離しています。ちなみに、“新興”ではありませんが、BYD(01211)の販売台数(乗用車)は20万6904台です。


販売台数は積み上がっている一方、業績面では各社ともまだまだ厳しいようです。ファーウェイにとって、スマートカーは唯一の赤字部門とされています。部門立ち上げ以来の開発投資額は累計30億米ドル。一方、22年12月期の事業売上高は20億元余り(総売上高の約0.3%)にとどまっていました。


この状況を受け、次の一手はスマートカー部門のスピンオフと言われます。同社は先ごろ、関連コア技術と経営資産を新会社に移管すると発表。その新会社には重慶長安汽車(200625)が最大40%出資する見込みで、第一汽車集団や東風汽車集団(00489)も最大5%出資する可能性があると伝えられています。事実上、「ファーウェイ・モーター」の誕生となるでしょうか。外部資本の受け入れを通じ、投資リターンの拡大とさらなる躍進を遂げられるか。これからが正念場となりそうです。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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