1年間で1割超の“スリム化”
中国企業の6月中間期決算の発表がピークを迎えています。ゼロコロナ政策終了からのリオープン(経済再開)効果は、特に消費や旅行関連セクターで現れており、好決算銘柄も目立ちます。8月末には出揃うので、業界ごとの優劣も後日まとまって報じられそうです。
さて、ここでは決算書の中でも従業員数や賃金などにフォーカスしてみます。業績だけではなく、その中の動きや細かなコスト調整も分かってくるからです。
まずはテック系の代表格であるアリババ集団(09988)とテンセント(00700)。両社は四半期ごとに従業員数を公表していますが、アリババは今年6月末時点で22万8675人を抱えています。ただ、1年前と比べると1万7025人(6.9%)の減少。確認できる範囲では21年末の25万9316人がピークなので、1年半で約11.8%の人員削減を行ったことになります。出資先のスーパーなど系列企業での削減も含むので、一概に大規模リストラと言い切れませんが、それでも1割超の“スリム化”は小さくない変革です。
一方、テンセントは6月末時点で10万4503人いますが、こちらも1年前比で6212人(5.6%)の減少です。リストラや人員調整の進展がうかがえますが、一方で人件費の圧縮に繋がっていることも事実。総報酬の対売上高比率は21.1%(22年6月中間期)⇒20.1%(22年12月期)⇒18.1%(23年6月中間期)と低下傾向にあります。テック系全体への風当たりが強い中、コストを見直して収益を追求する――。当然と言えば当然ですが、この数字の変化からも各社の工夫がうかがえます。
ちなみに、数だけで比べるとやはり国有銀行の従業員数が多いです。中国工商銀行(01398)は42万7587人、中国建設銀行(00939)は35万2588人など(いずれも22年末時点)。前年比では、前者が1.5%減、後者は逆に0.4%増となっています。
同じく国有銀行の中国銀行(03988)は30万6182人の従業員を抱えますが、国策でもある「共同富裕」に呼応するべく、一般行員と中・上級管理職の給与格差を縮小する取り組みを開始したと伝えられています。計画によると、一般行員の給与が10~15%程度引き上げられ、中・上級管理職の給与は同様の幅で引き下げられるということですが……。果たしてどのような改革が進んでいくのでしょうか。
証券会社で給与4割減の衝撃
さて、仕事柄、証券業界も気になります。中国の証券各社は給与水準が高く、ボーナスも数カ月分は当たり前。トップエコノミストやアナリストになると、年収が1000万元(約2億円)を超える人もいたようです。ただ、数年前の話題なので、現在はかなり異なっているかも知れません(さすがに「給料、下がりましたか?」と面と向かっては聞けません……)。
参考までに、情報ベンダーなどがまとめた主な証券会社の平均年収の変化を紹介します。22年度で最も高かったのは最大手の中信証券(06030)で、なんと83万6000元(約1672万円)。これでも前年比では11.7%減なので、「さすがCITIC」というところでしょうか。それに続くのが大手の一角を占める国泰君安証券で、70万元(約1400万円)超とのことです。
にわかに注目されたのが招商証券(06099)。平均年収は47万3000元(約946万円)とまずまずでしたが、前年比で39.4%も減少しました。減少率で言うと、海通証券(06837)が36.3%減、華泰証券(06886)が28.9%と大きくなっています。ちなみに、中国では一般的に「税・社会保険料込」が給与額として示されるので、実際の手取り額は大体7掛けと言ったところでしょうか。それでも多いことに変わりはないですが。
中国財政部は22年8月に国有金融企業向けに出した通知で、「社員の給与分配を合理的な範囲に保て」と指示しています。幹部クラスでも職責を果たさない者には給与を一部返納すべきとされました。加えて、出張や接待などの経費についても規定を厳格に守るべしとの旨も盛り込まれています。まさに、箸の上げ下ろしまでの管理とでもいうべき通知ですが、それだけ無駄を省き、本業に専念せよという狙いなのでしょう。通知は国有企業向けですが、民間企業も概ねそれに従っているようです。
そういえば、かつては羽振りの良かった旧知の証券マンは、最近は大人しいです。数年前は、美食グルメや旅行などの「炫富(シュエンフー=見せびらかし)」写真をSNSにアップしていましたが、最近は趣味のダンスや日々のたわいもない話など、以前と比べるとやや地味。お金が全てを決めるものでもありませんが、懐事情がライフスタイルをやや変えているのかもしれません。