中国現地Now!

中国現地Now!上海デモの最前線、市民の反応と後始末

外出したら警官隊に遭遇


中国のゼロコロナ政策に対する抗議デモが大きな話題となっています。中国のみならず世界各地に広がり、東京・新宿でも繰り広げられたデモをニュースなどでご覧になった方も多いと思います。私が住む上海でも11月下旬の週末に抗議活動が行われました。発端は、新疆ウイグル自治区のウルムチ市で起きたマンション火災で10人が死亡(当局発表)したこととされています。その追悼集会のようなものの中で、ゼロコロナ政策の反対、さらには国家指導部の退陣を求めるシュプレヒコールなどに繋がっていきました。


上海では市中心部の「ウルムチ中路」付近でデモが行われました。この界隈は旧フランス租界の趣が残り、閑静な住宅街として知られています。週末になると地元上海人や観光客が訪れる人気スポットで、歴史を感じる街並みをバックに写真を撮る市民でごった返します。また、付近の安福路と合わせ、お洒落なレストランやカフェ、バーなどが多数あり、若者人気が非常に高いところです。


上海でデモが発生した11月26日と27日。私が住むマンションはウルムチ中路近くにありますが、普段通りに外出したところ、偶然にも騒動に遭遇してしまいました。ネット投稿やニュースでは大声での激しい抗議や警官隊に暴行を受ける市民の姿がありました。私はそれらを直接目撃できませんでしたが、何か怪しいことが起きそうな雰囲気をひしひしと感じました。


 


2車線ほどの小さな通りにすぎない前述の安福路は、様々な警察車両で溢れかえっています。それを避けるように市民が歩いていましたが、前方には警官隊が何重にも並び、じりじりとブルドーザーのように迫ってくる姿に恐怖感を覚えました。子供連れの外国人に対して、「危ないから子供は抱きかかえなさい!」と居丈高になって怒鳴る警察スタッフ。「早く逃げた方がいいよ」と小走りになる市民。週末の散歩がてらに訪れたオシャレストリートの光景に驚く若者。少々パニック的な様相を呈していました。


通りには身動きが難しいほど多くの市民が集まり、道路も一部通行止めとなりました。実は、現場で一番困っていたのはネットスーパーやフードデリバリーの配送スタッフ。普段の通りを抜けられないため時間通りに届けることが難しくなり、客に電話して説明する姿を多く見かけました。なかなか中国らしい光景にちょっとだけ癒されます。私は普通に歩いていたのですが、なぜか最前線近くに紛れ込んでしまい、少々焦りました。身の危険を感じたのと、幸いにもサッカーW杯の試合開始時間が迫っていたため、早々に現場から離脱。事なきを得ました……。


「なかったこと」にしたい当局



デモ翌日の月曜日(11/28)。車道や歩道に沿ってバリケードがめぐらされ、通行はできるものの、警官隊が多数配置されて実に物々しい雰囲気でした。職務質問を受ける市民もおり、ピリピリムードは継続。ただ、この日から冷たい雨模様が続いたことも関係しているのでしょうか、人通りは少なくなり、ここ数日間はデモのような動きは全く見られません。


日本側からよく聞かれる質問の一つに、上海各地で同じようなデモが起きているのですが?というものがあります。答えはNO。前述のウルムチ中路界隈で繰り広げられているものだけです。どこで何が起きているかすら知らない上海市民も意外と多くいます。現場近くに住む中国の知人からは「え、何が起こっているの?造反?」という戸惑いの連絡も来ました。デモの様子はニュースなどでは全く触れられず、SNSなどでの投稿もすぐに当局検閲で削除されてしまう状態。当局は全てを「なかったこと」で片付けたいようです。


「なかったこと」と言えば、デモ直後から「ウルムチ中路」と書いた道路標識が、当局によって現場から続々と撤去される事態もありました。デモとの関連を連想させる物は全て見えなくするという意図があるのでしょうか。こんなことをやって何の意味があるのか分かりませんが、とにかくパワープレイで強引かつ穏便に騒動を収めようという工夫の一つなのかもしれません。


中国各地での抗議デモの結果なのでしょうか、広州市や北京市ではゼロコロナ政策の一部見直しが伝えられています。ただ、「濃厚接触者が1人出ただけでマンション封鎖」など、これまでが「変態的に厳格」だったのが「普通に厳格」程度に戻っただけなので、政策の大幅緩和という言い方には違和感が残ります。上海ではむしろ、行動制限が厳しくなっており、普通の生活からは程遠い状況。日本でも伝えられているように、街角や地下鉄駅などでは警官による市民のスマホチェックなどがランダムに行われています。違法アプリを持っていないか、怪しい写真は撮っていないか、などを一つ一つ調べているようです。身分証明証やパスポートのチェックはこれまでも随時行われていましたが、持ち物検査まで細かく行うとは……。普通の生活をしている分には大きな問題はありませんが、心理的にやや閉塞感を抱いてしまう日々が続きそうです。




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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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