1月に13%下落した深セン、2月はなんと……
「もう株は見ていない」――。先日、旧知の中国人がこう嘆いていました。彼は個別株からファンドまで幅広く運用している個人投資家。最近は株価下落が相次ぎ、スマホを開いてチャートを見るのすら怖がっています。金融資産は、いわゆる「塩漬け状態」になっています。
一方、中国株式市場は2月にV字回復と言える大きな反発を演じました。特に顕著だったのが深セン成分指数です。このコラムでも以前お伝えしましたが、1月は13.8%下落し、世界主要指数の中で最悪のパフォーマンスでした。ただ、2月は春節(旧正月)を挟んで13.6%高となり、1月の下落分をほぼ取り戻しています。上海総合指数も、1月は6.2%下落したものの、2月は8.1%高となりマイナス分を帳消しにしました。2月のパフォーマンスだけを見ると、両指数とも過去最高値を更新した日経平均株価の上昇率を上回っています。
なぜこのような大幅反発となったのでしょうか。その背景には、中国当局の半ば強引とも言える株価下支え策があります。
資本市場の安定に向けて、国務院常務会議(1/22開催)は「より強力で有効な措置」を強調し、中国証券監督管理委員会(CSRC)は「全力で維持」するとしました(1/23)。ただ、これらは「口先介入」程度にとどまり、中身が見えづらかったため、投資家の反応はイマイチだったのも事実です。
その後も政策発表が相次ぎました。改めてまとめてみます。
◇CSRC が「市場の異常な変動を阻止する」と表明(2/4)
◇CSRCが公安当局との合同捜査実施を踏まえ、「違法な相場操縦や悪質な空売りを行った者は破産させ、投獄する」と警告(2/5)
◇中央匯金投資(政府系ファンド=国家隊)がETFの買い増し方針を発表(2/6)
◇CSRCが信用取引の規制強化を決定(2/6)
◇CSRCがトップ交代を発表(2/7)
◇上海・深セン取引所が短時間の大量売却を行った大手クオンツファンドの取引を制限(2/20)
◇CSRCが機関投資家に取引開始直後と終了直前の株式売り越し禁止を通達したとの報道(2/21) ※CSRCはその後、「売却制限ではない」としている
「上からの政策」は資本市場の健全な動きを妨げるとの見方もあるでしょうが、一方で安定が最重要視される中国では歓迎される側面もあります。少なくとも株価下落の“止血効果”はあったようです。
外資の買い戻し、売買代金が1兆元超え
直近データをいくつか挙げてみます。まずは海外投資資金によるストックコネクト経由でのA株投資。いわば「外資の中国株買い」です。
2023年1月は、中国のゼロコロナ政策の終了とリオープン(経済再開)期待から、海外投資マネーは1413億元を買い越しました。これは月間ベースで過去最高。1000億元を超えたのも初めてです。その後、7月までは一進一退も、概ね買い越しの月が続きました。ただ、景気回復の遅れ、不動産債務問題への懸念、人民元の対米ドル安などを背景に、8月以降は大きく売り越し。24年1月まで6カ月連続で資金流出となりました。
この流れが2月に変わり、一気に607億元の買い越しに転じました。「直近6カ月の借金返済!」とまでは行きませんが、春節の関係で取引日が少なかったのにもかかわらず、海外投資資金は中国A株を買い戻しました。もっとも、本格的な資金回帰かどうかは、今後の中国の景気や政策動向を見ないと何とも言えません。
続いて株式市場の売買代金(上海+深セン)です。2月7日には久々に1兆元(約21兆円)を上回りました。1兆元超は23年11月8日以来のこと。日経平均株価が34年ぶりに過去最高値を更新した2月22日、東証プライムの売買代金は5兆5622億円でしたが、その約3.8倍に当たります。
中国では売買代金が1兆元を超えると大商いと見なされます。2015年の大相場の時は2兆元の大台に乗せることもありました。一方、19年の株価軟調時は5000億元に満たない日も見られました。それと比べると、現在は一定の流動性は保たれています。これだけで投資家が市場に戻って来た、とは言い切れませんが、少なくとももう一度マーケットに目を向け、安いところを拾っていこうという投資家が一定程度いたと言えるかもしれません。
1月と2月の波乱相場を乗り切った中国市場。春節と元宵節が過ぎて正月ムードを抜け、3月から本格的に2024年が始まります。株式市場も再スタート。昨年の不振を挽回する辰年の大相場に期待しましょう。