大卒者の就職率は意外と低い?
中国ではこれから卒業シーズンを迎えます。大学は基本的に9月入学(授業開始)で、卒業(授業終了)は夏(6~7月)です。この時期になると大きな話題になるのは就職。日本のようにスケジュールがある程度決まっている「就職活動」はありませんが、就職フェアやインターンなどが盛んに行われています。今年の大卒者は過去最高の1179万人に上る見込みです。
近年は「卒業即失業」と揶揄されるほど就職難が社会問題になっています。明確な統計データはありませんが、大卒者の就職率が5割を切る、あるいは3~4割程度に落ち込んでいるという情報もあり、就職状況が悪化しているのは確かなようです。中国人民銀行(中央銀行)が実施した預金者アンケート調査によると、市民の雇用実感に関する設問で「比較的良好な状況・就職容易」と答えた者の比率は右肩下がり、「厳しい状況・就職難・判断できず」の比率は右肩上がりという対照的な結果が出ています。この傾向は新型コロナ禍を経てより如実になってきた感もあります。
先日、訪問先の内モンゴル自治区の小さな町で、ライドシェアのドライバー(女性)と世間話をしました。聞くと、彼女の息子は高校まで地元で過ごした後、河南省洛陽の大学に進学したとのこと。そして今年卒業を迎えるそうです。私が「そのまま都市で就職するんですか?」と尋ねたところ、彼女は「いいえ。地元に戻ってきます」と返してきました。地方農村部よりは都市部の方が仕事が見つけやすく給料も高いと思い、恐縮ながら「でも、都市で仕事をした方がいいのでは……」と言うと、彼女曰く「都市の生活リズムは速すぎる。本人も地元に戻りたいと話しているし」。もちろん、都市部に残っても競争が激しく、希望する職業に就けるか分からないという事情もあるようです。ただ、帰ってきても就職のあてはないとのことで、彼女はため息をついていました。
中国の都市部失業率は概ね5%前後で推移しています。今年3月の値は5.2%でした。これを年齢別に見ると、16~24歳(学生を除く)が15.3%、25~29歳(同)が7.2%と、若者ほど失業率が高くなっています。希望の職に就けないため、「就職浪人」する人も一定の割合でいそうですが、そもそも仕事にありつけないという人も多く、社会不安や消費の伸び悩みに繋がっていく可能性があります。
ブルーカラーの給与が右肩上がり
中国では毎年、出稼ぎ労働者などを対象とした就職促進キャンペーン「春風行動」を実施しています。今年は1月下旬から4月上旬にかけて展開。就職・求職フェアなどのイベントを6万4000回開催し、延べ4300万人超の雇用を提供したとのことです。これは当初目標の3000万人を大きく上回りました。旅行や外食、美容・エステなどのサービス業のほか、人工知能(AI)やビッグデータ関連の募集が多かったようです。このキャンペーンは人力社会保障部が行ったもので、政府が率先して就職先をあっせんすることで社会の安定を図ろうという狙いもありそうです。
さて、就職先が決まった後の話ですが、給与水準はどうなっているのでしょうか。職種や地域によって差があるため一概には言えませんが、サービス業を中心としたブルーカラー層についての報告書を見てみます。
中国新就業形態研究センターがまとめた「2023中国ブルーカラー就業研究報告」によると、23年のブルーカラー層の平均月収は6043元になりました。前年の6078元よりは微減ですが、10年前と比べると2倍以上になっています。ホワイトカラー層との差も縮まってきました。
ブルーカラーを職種別に見ると、比較的月給が高かったのは、月嫂(ユエサオ=産婦と新生児の世話をする家政婦)、トラック運転手、フードデリバリー配達員でした。一方、清掃員、警備員などは月給が少ないとのことです。
実際に働く人の声をまとめると、フードデリバリー配達員では7割近くの人が「働けば働くほど収入が増える」と考えています。努力をすればそれなりの対価が得られる、とでも言えましょうか。また、美容関係のスタッフの約5割の人が「見通しが明るい」と認識しています。ただ、警備員の中では「仕事が楽」と答える者が5割近くいるとのこと。月給が安い理由も分かる気がします。
最後に現地の人が結構気にするボーナスの話。こちらはホワイトカラー層が中心のデータです。求人サイトの智聯招聘がまとめた「2023年白領年終奨調研報告」によると、ホワイトカラーの23年の年末(春節)ボーナスの平均支給額は6950元(約14万3414円)でした。前年は8428元だったので、17.5%減少という結果です。景気減速と消費減退などに伴い、各社で減収(ボーナス減)という名のコスト削減が進んでいることが分かります。金額トップは金融業の7922元でしたが、前年の1万2446元を大きく下回りました。もっとも、ホワイトカラーはのうち「年末賞与が支給される」と回答した者は全体の20.2%(前年は26.9%)にとどまっています。このほか、「不明」が39.4%、「支給なし」が13.8%。額ではなく、支給されるだけマシと考えた方が良いのかもしれません。