チケットレスは当たり前、身分証で改札通過
中国では、ゼロコロナ政策の解除と感染拡大の一服を受け、市民の移動が活発になっています。特に列車の混雑が目立ってきました。私も年明け以降、出張や旅行で高速鉄道を使う機会が増えていますが、どの列車もほぼ満員状態。中国では全車指定席なので、チケット売り切れが続出しています。
少々前の統計ですが、中国の「春運」(=春節前後の40日間の輸送強化期間。今年は1/7~2/15)の鉄道旅客輸送量は延べ3億4800万人に上りました。これは前年同期比で37.5%増。“コロナ前”の2019年の85.5%水準です。実際に乗ってみても、確かに鉄道旅客の戻りは概ね8~9割程度、ほぼ平時と同じ状況と感じることが多くなりました。
さて、中国の鉄道事情を紹介します。ニュースやネットで見たことがある方も多いと思いますが、中国の鉄道駅は巨大なものが多く、大都市のターミナル駅は空港のような趣です。駅構内に入るためには、身分証明書(身分証。外国人はパスポート)チェックと荷物検査が必須。夏休みや春節、大型連休時には長蛇の列ができていることもあるため、早めに到着しなければなりません。
各種チェックを済ませてコンコース内に入り、待合スペースで自分の列車を待ちます。チケットはほぼ電子化されており、予約は基本的にスマホアプリ内で行います。そのためチケット売り場はそれほど混雑していません。チケットは全て実名制。中国人の場合は身分証と紐付けられており、そのカードを改札機にかざすことでゲートが開きます。もちろん外国人のパスポートにも対応しています。
この改札が曲者で、列車開始前の15分前からしか開きません。16両編成の高速鉄道になると、場合によっては数百人が列に並ぶことになり、改札は大混雑。身分証をかざしてから改札ゲートが開くスピードは日本よりだいぶ遅く、しかも列の割り込みが頻発し、大きな荷物を持った人も多数いるので、いつも効率悪くノロノロです。以前、この「改札時間15分」の間に客をさばききれず、列車が先に発車してしまい、多数の乗客が取り残されるという珍時も目にしました。今はさすがにそこまでひどくないですが、先日乗った列車は改札が混雑し、出発が予定時刻より5分ほど遅れてしまいました。改札を自由に開けておけばいいのに、と思うのですが、「混乱を避けるために乗客を管理する」という中国ならではのやり方が優先されているようです。
車内に「消毒マン」登場!
ここ2週間の間に高速鉄道に数回乗りました。上海から南京や杭州などへの近距離移動でしたが、いずれも乗車率はほぼ100%。中には1等車(日本のグリーン車に相当)が2等車(同普通車)より先に売り切れている列車もあるほどで、お金を払ってでも快適さを好む客が増えているのかもしれません。
車内はマスク姿が多いですが、気持ちが緩んでノーマスク姿の人もいました。これまでだと乗務員から厳しく注意を受けていたものですが、最近はそれもなくなっています。今後、徐々にマスクなしの乗客も増えていくのでしょうか。
一方、清潔感を気にする人が増えた気がします。先日は「消毒マン」とでも呼べる客に遭遇しました。N95タイプの本格的マスクとフェースガードはもちろん、自ら持ち込んだスプレー型の除菌剤を、座席や背もたれ、ひじ掛け、窓などあらゆるところに吹きかけていました。また、隣の席の若者がアルコール除菌できるウェットティッシュで座席やテーブルを入念に拭く姿も見ました。以前は全くなかった光景。皆が皆というわけではありませんが、清潔志向の高まりを感じます。
もっとも、懐かしい様子はそのままです。中国では鉄道旅のお供と言えばカップ型の即席めん。各車両には給湯器が備え付けられ、乗客はお茶やラーメン用に使います。中国の即席めんは濃いニオイのものが多く、1人が食べると車内がにわかに香ばしくなります。日本だと「座席でこんな匂いがするものを食べるなんて!」とお叱りの声も出そうですが、中国では周りを気にせずにラーメンタイムを楽しむ人がほとんどです。
また、イヤホンなしでスマホ動画や音楽を楽しみ、大声で通話する人も相変わらずです。以前、複数の乗客がアクション映画を観ており、あっちでバキューン、こっちでバキューンと車内が大忙しでした。先週乗った高速鉄道では、後ろの座席から「ミッション・インポッシブル」のテーマ曲が流れてきて、いったい何が始まるのかとドキドキしてしまいました。自由なのはいいですが、ゆっくり休みたいときにはイラついてしまいます。
もっとも、最近はサイレントカーなるものもあり、様々なニーズに応じた移動や旅ができるように工夫されているのも事実です。コロナを経て中国の鉄道事情も変わったり変わらなかったり。いずれにせよ、ここ3年間で抑えられていた移動ニーズが急速に戻っていることは確かなようです。