旅行者数はコロナ前の9割水準に回復へ
中国では物価が伸び悩み、デフレ懸念が高まっています。先日発表された今年7月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比で0.3%低下。マイナスになったのは21年2月以来のことで、景気回復の腰折れ感も漂い始めています。
一方、CPIの各項目の中で大きく上昇したのが「旅行」です。7月は同13.1%のプラス。夏のホリデーシーズンの後押しを受け、飛行機代やホテルなどの宿泊料金が上昇したようです。旅行分野は、春節(旧正月)があった今年1月にも同11.2%上昇しており、季節によって大きく変動するのも特徴です。
中国文化旅遊部によると、今年上半期(1~6月)の国内旅行者数は延べ23億8400万人に上り、前年同期比で63.9%増加しました。これを受け、中国旅游研究院は通年見通しを当初の45億5000万人から55億人に上方修正しています。昨年の25億3000万人と比べると117.4%の増加。“コロナ前”の19年は60億600万人でしたが、その9割水準まで戻す見通しです。
ホテル料金の上昇は至るところで伝えられ、私も旅行や出張のたびに実感しています。ゼロコロナ政策が実施されていた約3年間、ホテルはバーゲン価格という状況でした。私はこの恩恵をフルに享受し、普段は800元(約1万6000円)程度のホテルにわずか300元(約6000円)で泊まったこともありました。それと比べると、現在の価格はものすごく高く感じてしまいます。元の値段に戻っただけと言われればそれまでですが……。
中国の大手ホテルグループ、華住集団(01179)のデータを見てもホテル料金の値上がりは明らかです。同社の客室平均単価は今年4~6月期に305元まで上昇しました。これは19年以降で最も高い数字です。ゼロコロナ政策下では一時200元以下に落ち込み、また一部ホテルが隔離専用として政府に半ば“接収”され、思うような営業ができないこともありました。その苦難の時期を乗り越えて、直近では右肩上がりで上昇中。客室稼働率も80%台を回復し、コロナ前の水準に戻っています。
スマホを勝手にいじられて……
この華住集団、今年6月末時点でホテル8750軒を展開する巨大チェーンです。エコノミータイプ(ビジネスホテルの趣)からミドル、ハイエンドタイプまで様々なブランドを経営しており、用途に合わせて活用できます。私も「宜必思」「桔子」などのホテルに時々泊まりますが、気が付いたら実は華住が展開しているチェーン店だった、ということが何度もあります。
先日も南京で、同社傘下の「桔子水晶」ホテルに泊まりました。いつものように、トリップドットコム・グループ(09961)のアプリ(現地では中国語のブランド名「携程=シエチャン」と呼ぶのが一般的です)で予約。それに基づいてフロントでチェックイン手続きをしていると、スタッフから「もっと料金が安くなりますよ!」と笑顔で話しかけられました。最初はワケが分かりませんでしたが、どうやら華住の自社アプリ経由の予約でさらに数%程度割引になるようです。
普通なら、「いや、でも携程で予約してしまったので……」となるでしょうが、ここは商魂たくましい中国人。モジモジしていた私のスマホをのぞき込み、さらに途中からはスマホを奪い取って操作し始めました。あっけに取られている間に、彼女は華住のアプリをダウンロードしたり(「はい、パスワードを入力して」と言われました)、微信(WeChat)の公衆号(企業などの公式アカウント)をフォローしたりと手際よく進めていきます。ここで「勝手に人のスマホをいじるな!」と怒ってはいけません。彼女は親切心100%で行っているだけなので、よほど変なことをされない限り、ある程度は大目に見るのも“中国式”です(もちろん許容度は人によって異なるでしょうが)。
数分後、彼女は一連の操作と予約を終えたようで、満足そうな表情でスマホを返してくれました。「よかったじゃない。50元も節約できたのよ!」という笑顔に、私も思わず小さな幸せを感じざるを得ません。「携程の予約分は自分でキャンセルしておいてね」と一言加えられましたが……。フロントの後ろには、上司と思しきマネージャーが我々のやり取りをじっくりと観察しており、目がキラリと光ったような感じもしました。気のせいでしょうか。
観光業が復活し、企業間の競争も激しくなっています。どこの業界も同じですが、成長のキーワードは「囲い込み」「リピーター」などとなるでしょう。自社会員を増やし、次回以降も引き続き利用してもらう……。そんな王道の戦略がホテルのフロントで繰り広げられました。私のスマホには今も華住のアプリが残っています。