スタバ売上が46%増
中国の景気回復、特に消費の戻りが想定より遅いと言われています。2023年6月の小売総額は前年同月比3.1%増にとどまりました。3月が同10.6%増、4月が18.4%増、5月が同12.7%増でしたが、これはゼロコロナ政策に伴う都市封鎖(ロックダウン)が各地で頻発していた昨年の値が低かったため。この二桁増と比べるのは酷な話ですが、それでも6月の3.1%増は物足りない感が否めません。小売総額の中でも商品、すなわち「モノ消費」に限るとわずか同1.7%増でした。
一方、外食産業、すわなち「サービス消費」は堅調です。6月は同16.1%増と4カ月連続で二桁成長を遂げました。行動制限の影響を受けやすかったレストランなどの売り上げは回復基調が鮮明です。ゼロコロナ政策の終了で街に活気が戻ってきました。
代表的な飲食チェーンの23年4~6月期の既存店売上高(中国事業)も出揃いました。米スターバックス(スタバ)は前年同期比46%増と好調。同社は21年10~12月期以降、6四半期連続で前年割れでしたが、今年1~3月期からプラスに転じました。スタバは中国の生活シーンにすっかり溶け込んでおり、この売上指標を景気動向と結び付けて論じるエコノミストもいるほど。ここに来てのV字回復は、コロナ禍の不振の反動という“ゲタを履いた”側面もありますが、いずれにせよ各店舗に明るさが戻ってきたことは現地でも感じるところです。
味千ラーメンを展開する味千(中国)控股(00538)の4~6月期の既存店売上高は同45.3%増でした。こちらもスタバと同じく、今年1~3月期からプラス成長となっています。スープを伴うラーメンの場合、デリバリーではなかなか頼みづらいようで、ゼロコロナ政策下で苦しんだ外食カテゴリーの一つと言われました(もっとも、麺とスープを別々にして届ける牛肉麺なども見られるのですが)。今ではその状況から脱却し、復活の道を歩んでいます。
ヤム・チャイナ(09987)が運営するファストフード店では、ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が同15%増、ピザハットが同13%増でした。新型コロナ禍の中でも業績は比較的安定しており、KFCは最悪期でも10%台の減少で、スタバや味千ラーメンが最大で50%超減少したのとは対照的です。また、他の外食企業と異なり、コロナ禍の中でも赤字経営に陥りませんでした。デリバリーをうまく活用し、市民のニーズに応えてきたのでしょう。
外食産業が復活、今後はやや不透明感も
さて、中国地場系のチェーン店の躍進が目立つのも昨今の特徴です。新興コーヒーチェーンの草分け的存在であるラッキンコーヒーは、四半期業績でスタバを初めて超えたことが話題になりました。今年4~6月期の売上高は、ラッキンが62億140万元、スタバが約59億6000万元。店舗数は1万836店に上り、スタバの6480店を大きく上回っています(23年6月末時点)。
街中では確かにラッキンの店舗をよく見るようになりました。上海の中心部、徐家匯の地下鉄駅改札を出たところにある店舗では、通勤前のビジネスパーソンがコーヒーをテイクアウトする姿をよく見かけます。基本的に全てスマホオーダーなので、家を出る前や地下鉄の中で時間指定の注文を済ませ、店舗でさっとピックアップするスタイルなのでしょう。都市部の店舗はイートインスペースを設けない店も多くなっています。
先ほど触れたKFCは、地場系ではないものの、メニューを見ると中国にかなり“寄せて”います。朝食にお粥、夜食に羊の串焼きを提供するほどで、以前は激辛の串料理もありました。ちなみに、中国ではマック派よりKFC派が多いと見られます。中国で肉と言えば豚肉ですが、それと同じくらいの人気を誇るのが鶏肉なのです。
このほか、火鍋チェーン大手の海底撈国際控股(ハイディーラオ、06862)は、23年6月中間期の純利益が前年同期の30倍超に膨らむ見通しを発表しています。売上高は少なくとも23.7%増になったとのこと。客足が回復したほか、店舗数の増加による売り上げの拡大、客席回転率の改善に伴う経営効率の上昇などがその理由です。中華レストランチェーンの九毛九国際控股(09922)も、同6月中間期での大幅増収増益見通しを明らかにしました。売上高は約51.7%増、純利益は281.3%超増を見込みます。店舗数の増加(前年6月末:475店⇒今年6月末時点:621店)や、ゼロコロナ政策の終了で単純に営業日数が増えたことなどが後押し材料とのことです。
これらの企業業績を見る限り、外食各社の一定の復活は進んでいるようです。景気の先行き不透明感から市民の財布の紐が固くなっており、この勢いがどこまで続くかは予断を許しませんが、中国勢や海外勢を問わず、中国人の胃袋を巡る各社のビジネスや工夫がより一層注目されます。