中国現地Now!

外食各社の業績低迷、価格に敏感な一般市民

発表相次ぐ減益&赤字転落見通し


中国の外食産業が苦戦しています。国家統計局によると、24年上半期(1~6月)の飲食業売上高は前年同期比7.9%増だったものの、1~3月期の同10.8%増と比べて勢いに欠けました。23年通年はゼロコロナ政策の反動もあり前年比20.4%増でしたが、今年はこれを大きく下回りそうです。今後本格化する上場企業の決算も厳しいものになると思われます。


ティードリンクの「茶百道(ChaPanda)」をチェーン展開する四川百茶百道実業(02555)は8月9日、24年6月中間期で最大63.03%の減益になる見通しを発表しました。同社は今年4月に香港市場に上場した、ティードリンク業界の注目企業。主に地方都市に出店し、大衆的な価格設定(10元台が中心)が好評です。22年通期は16.1%増収26.3%増益、23年通期は34.8%増収19.4%増益と二桁成長が続いてきましたが、今年上半期は思わぬ減益決算となるようです。


同社は減益理由として、「消費者の習慣が外部環境の変化を受けた」とやや回りくどい説明をしていますが(このような抽象的な言い方をする企業は非常に多いです)、要は消費低迷と業界内の過当競争(悪性競争)ということでしょう。また、フランチャイズ店へのサポートを厚くしたことでコストが増大したということです。市場では、蜜雪冰城(MIXUE)、古茗(Good me)、滬上阿姨(Auntea Jenny)など、低価格を売りにする同業他社との競争が激しく、繁華街にティードリンク店が乱立する光景も珍しくありません。


一方、高級路線を展開していた奈雪的茶控股(02150)は、24年6月中間期で4億2000万~4億9000万元の赤字に転落する見通しを示しました。こちらは素直に「消費の回復が遅れ、店舗売上高が減少した」と説明しています。不採算店の閉鎖に伴う減損引当金の計上も赤字転落の理由の一つです。


この他にも24年6月中間期でネガティブな業績見通しを出している外食企業が複数あります。「味千ラーメン」をチェーン展開する味千(中国)控股(00538)は最大2000万元の赤字に転落する見通しを発表。客足の減少で既存店売上高がマイナス成長となり、一部店舗が赤字に陥ったとのことです。同社は21年通期に黒字転換、22年通期は赤字転落、23年通期に再び黒字転換となっていましたが、今中間期での赤字転落が濃厚となり、なかなか業績が安定しません。


中華料理チェーンの九毛九国際控股(09922)は、前年同期比で最大69.8%の減益になる見通しを明らかにしています。客単価とテーブル回転率が減少(低下)したのが主な理由。店舗数が前年同期の621店から771店に増えたため総売上高は約6.4%増となったもようですが、既存店売上高(日商ベース)は、酸菜魚料理の「太二」が18.1%減、「慫火鍋」が36.6%減、「九毛九」が12.6%減といずれも二桁減少でした。


「消費降級」で割引クーポンが人気


外食産業では「消費降級(消費のダウングレード)」も話題になっています。火鍋チェーンの呷哺呷哺餐飲管理(シャブシャブ、00520)は24年6月中間期で2億6000万~2億8000万元の赤字見通しを発表しましたが(前年同期は212万元の黒字)、その理由として「消費降級」を真っ先に挙げました。その上で、「外食市場の競争激化が顧客の来店意欲を低迷させ、傘下ブランドの売上減少に繋がった」としています。全体の売上高も約15.9%減少したようです。


バーチェーンの海倫司国際(へレンズ、09869)は、最大で39.4%減収57.5%減益になる見通しです。同社はオリジナルビールやカクテルなどを安価で提供し、若者や学生層に人気。日本で言えば「デフレ銘柄」に当たるかもしれませんが、経営自体は苦戦しています。


今、中国のレストランでは、セットメニューやコース料理を割引価格で提供したり、口コミ投稿サイト「大衆点評」などでのクーポン共同購入による実質割引が盛んに行われています。後者は、「100元消費で20元割引」のような電子クーポンをスマホアプリ上で購入し、会計時にクーポンのQRコードを示せば割引になるという仕組み。店員が「クーポンは購入されましたか?」とわざわざ聞いてくることもあり、非常に便利です。個人的な感覚ですが、最近は割引率が大きくなっており、1元でも安く食事を楽しもうという客が増えている気がします。それだけで「市民の財布の紐が堅くなっている」とまでは言い切れませんが、価格に敏感になり、お得感のある商品の人気がますます高まっているとは言えるでしょう。


外食市場の変調は米系チェーンにも微妙な影を落としています。ケンタッキーフライドチキン(KFC)などを展開するヤム・チャイナ(09987)の24年4~6月期決算は前年同期比0.9%増収7.6%増益とまずまずでしたが、既存店売上高で見るとKFCは同3%減、ピザハットは同8%減でした。また、スターバックスの既存店売上高も同14%減と、1~3月期の11%減に続き2四半期連続で二桁のマイナス成長。現地店舗の客の入りは悪くないように見受けられますが、数字で示されるとなかなか厳しいものがあります。


中国系の外食各社は8月下旬にかけて決算を発表してきます。売上高や利益に加え、既存店売上高や客単価などの推移をチェックし、中国外食産業の現在地を確認したいところです。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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