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何はなくともカップ麺、鉄道旅のマストアイテム

高速鉄道ではカップ麺は御法度?


先日、ネット上で即席麺にまつわるニュースが話題になりました。それは一つの投稿から始まったものです。「上海虹橋駅(高速鉄道駅)の売店ではカップ麺を販売していません。不便なので、買えるようにしてほしいのですが」――。


旅のお供にカップ麺。中国でよく見られる光景です。特に長距離列車の旅では必須アイテムと言ってもいいほど。食事数回分のカップ麺を持ち込む人もいます。駅の売店や車内販売で調達できます。


そのカップ麺が駅で売っていないとは何事か、というのが冒頭の投稿。これに対し、中国鉄路上海局集団は以下のようにマジメに回答しています。


「国鉄集団の『鉄路旅客運輸服務質量規範』の関連規定では、カップ麺は列車の衛生環境に重大な影響をもたらしかねない食品です。高速鉄道駅と列車の衛生環境を保護し、乗客が優良なサービスを受けられるために、管轄内の高速鉄道駅ではカップ麺は一律販売しません。乗客自身が持ち込むのは問題ありません。不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いします!」


この中にある「列車(車内)の衛生環境」とは何でしょうか。短文投稿サイト、微博(ウェイボー)のコメント欄を見ると、「食べ残しのスープの処理が問題」「カップ麺の匂いが車内に充満するのは耐えられない」などとあります。確かにスープの処理は問題です。デッキの洗面台にそのまま流し、詰まってしまう場面にもよく遭遇します。トイレに流すのもいかがなものでしょうか。また、独特で濃厚な匂いが車内に漂うのも事実です。私は「中国ならではの風物詩」とずっと思っていましたが、最近ではこれを嫌う人も増えているようですね(当たり前かもしれません)。


 


スター商品は康師傅


そもそも中国ではなぜ車内でカップ麺を食べる人が多いのでしょうか。まずは長旅が多いことが挙げられます。高速鉄道がなかった時代、1日や2日がかりの旅はザラ。寝台車や普通車などを連結した「緑皮車」と称される緑色の列車での長時間移動が普通にありました。私も北京から広州まで約24時間の列車の旅をした経験があります。ハルピンなどの東北地方や、甘粛省や新疆ウイグル自治区などへ30時間以上列車に乗るケースもありました。今でもこのような長距離列車は残っていますが、2000年代後半以降の高速鉄道の登場により存在感はやや薄れてきました。とは言え、「列車の旅=カップ麺」という思いは市民の心の中に残っているようです。


もう一つ、スター商品の登場も大きなインパクトを残しました。ずばり、康師傅(カンシーフ)です。これはもう有名な話ですが、台湾の食品事業グループ、頂新国際集団の創業者たちが中国で列車で移動をするとき、台湾から持参したカップ麺を食べていました。すると他の乗客たちの関心を引き、「どこで買うことができるのか」という質問を多く受けたそうです。それを機に「もしかしたら中国でも売れるのでは」と思い、1992年にカップ麺での中国進出を決めました。大げさではなく、かつては「カップ麺=康師傅」と言われていたものです。


また、中国では列車内に給湯設備が整っていたという背景もあります。乗客がマイボトルを持ち込み、茶葉を入れて車内で湯を注ぐという光景がよく見られますが、この環境もカップ麺の普及を後押ししたと思います。


もっとも、近年は若者層の即席麺離れも目立っています。康師傅の即席麺の売上高は、21年に前年比3.6%減の284億元。22年はプラス成長を回復したものの同4.2%増の296億元にとどまりました(23年の数字は3月26日に発表予定です)。鉄道旅における需要との関係は不明ですが、いずれにせよカップ麺の成長ストーリーが踊り場を迎えていることは確かなようです。


とは言え、中国は世界一の麺大国。世界ラーメン協会(WINA)によると、インスタントラーメンの年間総需要ランキングで、中国(香港を含む)は450億7000万食と断トツのトップです(22年)。日本(59億8000万食)の約7.5倍に当たります。高速鉄道でカップ麺をすする光景は少なくなるかもしれませんが、中国人の生活に溶け込んでいる即席麺の根強い人気はまだまだ続きそうです。

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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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