不動産は買い控えの動き
「不動産価格は下落見込む」「貯蓄志向は高止まり」――。このコーナーで何回も書いている中国人民銀行(中央銀行)のアンケート調査。最新結果からは、この二つのポイントが浮かび上がってきました。今回は、四半期に一度行われる都市部預金者アンケート調査の「2024年4~6月期版」から、市民の中国経済に対する見方や懐事情などを読み解いてみます。
まずは気になる不動産価格の見通しについて。分かりやすいのは「上昇」もしくは「下落」と見ている人の比率です。下落と予想する市民は全体の23.2%で、上昇の11.0%を大きく上回りました(他は「基本的に不変」など)。下落が上昇を上回るのは5四半期連続となります。
低迷する不動産市場に対して、中国当局は各種対策を打ってきました。今年4月30日開催の中国共産党の中央政治局会議では、不動産市場について「在庫の消化と供給の最適化に向けた措置を研究する必要がある」と強調されています。これを受け、中国人民銀行(中央銀行)が5月17日に市場支援策を公表しました。その中心は、①売れ残り住宅の買い上げ支援、②住宅ローンの頭金比率の引き下げ、③住宅ローン金利の下限廃止、の3点です。
ただ、これらの不動産テコ入れ策にもかかわらず、市民の間には「まだまだ下がるかも」「買うのは今じゃない」という買い控えの動きがあるようです。政策効果はまだ出ておらず、市況回復にはまだまだ時間を要するとの見方が大勢を占めています。
収入実感については、こちらも5四半期連続で「減少」が「増加」を上回りました。国有企業や金融業界などでは給与据え置きどころか引き下げの話も出ており、想像以上に懐事情が悪化していると思われます。ゼロコロナ政策終了後の23年1~3月期の調査では増加と考える者が減少を上回ったのですが、いわゆる「リオープン」の不発と息切れ感により経済や景気の見通しが悪化しました。
依然として高い貯蓄志向
全体的には市民の貯蓄志向の高止まりが見て取れます。「消費」「貯蓄」「投資」への意欲を問う三者選択方式の設問で、貯蓄を選んだ者は全体の61.5%。前四半期からは0.3pt低下したものの、6割超の高い水準が続いています。景気の先行き不透明感が根強く、安全志向が高い傾向は変わっていないようです。
一方、消費は前四半期から1.7pt上昇し25.1%になりました。23年7~9月期の21.9%からじわり改善中と言えましょう。ただ、投資は13.3%(前四半期比1.6pt低下)と10年以降で最も低い水準です。軟調な株式市場の影響などから、投資の手控えムードが感じられます。なお、投資方式としては、「銀行・保険・証券会社が取り扱う理財商品」が42.2%、「ファンド・信託商品」が18.2%、「株式」が13.5%でした。
消費では、「向こう3カ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)に対して「旅行」と答えた者が27.8%と最多でした。“コロナ前”の19年4~6月期以来の「トップ返り咲き」となります。夏や秋の観光シーズンに向けて外出を増やす機運が高まっていたようです。
ちなみに、24年上半期の国内旅行者数は前年同期比14.3%増の27億2500万人。中国旅游研究院は今年通年で19年とほぼ同じ60億人超まで回復すると予想しています。
もう一つデータを挙げると、夏季の特別輸送体制「暑運」(7月1日~8月31日の62日間)の鉄道旅客輸送量は前年同期比6.7%増の延べ8億8700万人となり過去最高を更新しました。国家鉄路集団の当初予想の8億6000万人を上回った形です。
支出を増やす項目の詳細に戻ります。「付き合い・娯楽」は20.0%で前四半期比で0.5pt低下しましたが、引き続き19年の水準を上回って推移しています。人に会ったりイベントなどに参加する重要性が再認識されていると言えるでしょう。
一方、高額消費分野は右肩下がりです。「高額品」は前四半期比1.5pt低下の16.2%と19年以降で最も低い水準。前四半期は若干改善の兆しが見られた「不動産」も同0.4pt低下の14.6%でした。景気の不透明感から市民は財布の紐を堅くし、生活防衛意識を高めているのは相変わらずのようです。
これらはあくまでアンケート調査の結果ですが、現地に住む肌感覚とほぼ一致している気がします。ただ、都市部はまだ“マシ”な方で、内陸部・地方部に行くと状況がさらに悪いと思われます。いずれにせよ、冒頭に書いた不動産市場の回復が先決で、それがなければ消費マインドも改善しないという意見をよく聞きます。政府は政策は打ってきたので、あとは効果が出るまで待つしかないのでしょうか。