映画鑑賞者の9割が「スラダン」に集中
「ドラえもん」「ウルトラマン」から、「クレヨンしんちゃん」「ワンピース」「名探偵コナン」まで、中国では日本のアニメやキャラクターが幅広く受け入れられています。日中間の微妙な関係はさておき、市民の生活シーンでは日本のソフトパワーの存在感が目立ちます。そしてついに本命がやって来ました。4月20日に人気バスケットボール漫画「スラムダンク」の映画「THE FIRST SLAM DUNK」が中国でも封切られたのです。街中には派手な宣伝広告が見られ、北京では大規模なプレミア上映会も開催されました。
実は最近、中国の映画産業はちょっとした日本ブームで沸いています。3月から4月にかけて日本映画、もしくはリメイク版の公開が相次いでいるのです。代表的作品は、「名探偵コナン ベイカー街の亡霊」の復刻版、「忠犬八公」(「ハチ公物語」の中国リメイク版)などで、興行収入ランキングでも上位につけています。3月24日に封切られた「すずめの戸締まり」は、上映開始から1カ月足らずで興収7億元(約133億円)を突破。同じく新海誠監督作品の「君の名は。」を上回り、中国で公開された日本のアニメ映画の歴代最高記録を更新しました。
そして、これを上回る勢いと言われるのが前述のスラムダンク、通称「スラダン」です。公開初日の4月20日の興行収入は9459万元(約17億9700万円)。映画市場全体で1億943万元(約20億8000万円)だったので、約86%をスラダンが占めたことになります。ざっくり言えば、映画を観に行った人の10人に9人がスラダンを鑑賞したということ。このような現象は実に珍しいです。
スラダンは先に公開された韓国、台湾、香港など東アジア市場で大フィーバーを巻き起こしました。中国でも根強い人気があるため、熱の入りようがものすごいです。ファンの中心は30代前半から後半の世代。学生時代にハマった作品が、時を経て映画館で観られることに感慨もひとしおのようです。この点は日本と一緒ですね。
考えてみれば、中国の学校では日本のような放課後のクラブ活動はほとんどありません。中学生や高校生は勉強一辺倒。かつては体育の授業を行う際、生徒の父母から「受験勉強に関係ないムダな授業は行わないで」という類のクレームが多々あったと聞きます。スポーツの部活や地区大会・全国大会などは中国人には馴染みのないシステムかもしれません。このような環境下で、いわば“スポ根”物のスラダンがなぜか受け入れられていますが、その背景には、チームワークや団結、敵味方を超越した競争や友情などのアツい思いがダイレクトに響くという側面があるのかもしれません。
なぜか「中国」推しのアディダス
出所:アディダスのHP
スポーツアニメの世界では国や文化を跨いだ共感が広がりやすいですが、現実のスポーツシーンに目を向けると「愛国」のキーワードが存在感を増しています。
最近、スポーツブランド大手の独アディダスが中国市場で投入した製品が注目されました。その名も「中国ジャージ」。ブランドを象徴する3本線が入ったジャージの胸元に漢字で「中国」と書いてあります。いくら「国潮」(国産ブランド推し)ブームとは言え、まさかアディダスがここまでするとは……。一部で驚きの声も上がりました。
中国の知人にこの新製品の感想を聞いてみたところ、「ダサい」「絶対買わない」「アディダスがやる必要はない」などと否定的なものが多かったです。ただ、「できれば私は緑色が欲しい」という購入に前向きな意見や、「懐かしいデザインだ」などの評価コメントも少数聞かれました。気になるのはお値段。なんと999元(約1万9000円)という強気設定です。中国地場系メーカーが作る同じようなデザインのジャージは200~300元程度なので、それに比べるとかなりの割高。ブランド力は強いものの、価格面での競争力に乏しい中、いったいどこまで売れていくのでしょうか。
中国のスポーツアパレル・シューズ市場は長年にわたりナイキとアディダスの「外資2強」時代が続いていましたが、ここに安踏体育用品(アンタスポーツ、02020)が食い込み、アディダスを抜いて第2位の座についています。これらを追うのが中国系の李寧(リーニン、02331)という構図です。
シェア低下に苦しんでいるアディダスが一発逆転を狙い、中国の“空気”に寄せる形で「中国ジャージ」を投入してきたのでしょうか。ただ、李寧がサブブランド「中国李寧」で大きな存在感を誇っており、「中国」効果は未知数なところ。いずれにせよ、中国地場系も外資系も中国の愛国ブームや国潮トレンドを見極めながらのビジネス展開が続きそうです。