政府が在庫&遊休地買い取りへ
中国政府が不動産業界の不振を打破しようと躍起になっています。4月30日に開催された中国共産党の中央政治局会議では「不動産在庫の消化」への言及があり、これを受けて5月17日には住宅在庫の政府買い上げ方針や住宅ローンの規制緩和などが公表されました。中国の景気回復を妨げる大きなネックとなっている不動産問題。果たして解決へと動き出すのでしょうか。
5月17日の不動産支援策の中身は大きく二つに分けられます。一つ目は「政府による在庫買い上げ」、もう一つは「需要喚起と販売促進」です。
前者の在庫買い上げは、何立峰・副首相が直接、政府方針を示しました。何副首相は「経営難に直面する不動産デベロッパーの難局を助ける」と強調しています。売れ残りの物件だけではなく遊休地の買い入れも行う方針なので、抜本的かつ実質的な開発業者の救済策になるでしょう。
この実行に向け、中国人民銀行(中央銀行)は3000億元の保障性住宅向け再貸付枠を設けるとしています。総額で5000億元規模の融資になりそうですが、これを地方政府管轄の国有企業に貸し付け、売れ残り商品住宅の買い取りを支援するというスキーム。買い取り物件は低・中所得者層向けの保障性住宅に転換する方針です。
後者の住宅の需要喚起と販売促進は、文字通り、「不振が続く不動産販売の底上げを図る」ことが最大の狙いです。マンション購入時の住宅ローン規制を大きく緩和してきました。ポイントはいくつかありますが、一番インパクトが大きいのは、①商業銀行などが提供する住宅ローンの金利下限の廃止、②最低頭金比率の引き下げ、の2点でしょう。
①の住宅ローン金利の下限は、1軒目は「5年物ローンプライムレート(LPR)より0.2%低い水準」、2軒目で「5年物LPRより0.2%高い水準」とされていたものを撤廃します(5年物LPRは3.95%)。2023年8月にも同じような政策が発表されましたが、この時は1軒目については据え置きで2軒目のみ引き下げていましたが、今回は両方とも原則撤廃する「大判振る舞い」です。北京、上海、深セン、広州などの大都市では例外的に下限規制があるものの、その他のほとんどの都市でいわば「金利の自由化」が行われます。
②の最低頭金比率の引き下げは、1軒目購入時で20%から15%、2軒目で30%から25%になります。1軒目については、23年8月までは30%でしたが、その後2度の調整を経て今回15%になったので、購入ハードルが大きく下がったことになります。
市民のマインドは戻るか
さて、不動産支援策が出たことは喜ばしいですが、果たして効果は出るのでしょうか。私の意見としては、「何もやらないよりはいいが、成果は未知数」といったところです。その理由は以下の3点です。
まずは在庫買い上げの融資額3000億元(実質5000億元規模)という点です。現地メディア「財新」によると、在庫消化には1兆元から5兆元規模の資金が必要とされ、今回の額とはケタが大きく異なります。今後、買い取りや保障性住宅への転換など成功例はいくつか報じられそうですが、全体で見ると在庫消化が大きくは進まない可能性があります。
次に、保障性住宅の需給のミスマッチです。在庫住宅は地方都市に多くありますが、そこでは保障性住宅のニーズは比較的小さく、むしろ大都市で必要とされています。また、大都市ではデベロッパーが安価な買い入れ価格を敬遠するかもしれず、適切な価格設定が難しくなるかもしれません。安易な価格設定は周辺マンションの値崩れを誘発するかもしれず、住民の不満が高まる可能性もあります。
最後は市民の不動産に対するマインドです。中国人民銀行のアンケート調査(24年1~3月期)によると、不動産価格の見通しについての設問で、「下落」が22%と「上昇」の11%を上回っています。「下落」が「上昇」を上回るのは4四半期連続で、依然として市民の間では「価格はまだまだ下がるかも」「買うのは今じゃない」のような買い控えの動きがあるようです。
今回の一連の政策で、市民の不動産に対するマインドや購入ムードがやや改善するかもしれませんが、それが一時的なものに終わると、市況回復にはまだまだ時間を要すると見られます。そう思うのは、私自身が中国各地で建設途中で放置された(ように見える)マンション群、あるいは完成後も入居者がなかなか決まらないガラガラの住宅を多く見ているから。それらを見るたびに「鬼城(ゴーストタウン)」という言葉が頭をよぎり、「さすがに作り過ぎなのでは……」と思ってしまいます。
易居研究院がまとめた「百城住宅庫存報告」(4月30日)によると、中国の代表的100都市における住宅在庫の消化期間は25.3カ月です。一方、合理的な値は12~14カ月とのこと。問題解決への道はまだまだ長そうです。