「負のサイクル」で不動産指標はいずれも不振
先日、中国の2024年第1四半期(1~3月期)のマクロ経済データが発表されました。GDP(国内総生産)は前年同期比5.3%成長でしたが、これと並んで注目されたのが不動産関連の数字です。改善が見られるのか、或いは低迷継続か……。結論から言うと後者。不動産業界は厳しい状況が続いています。
まずは3月の代表的なデータを見てみます。
(いずれも年初からの累計、前年同期比)
◇不動産開発投資:9.5%減 うち住宅:10.5%減
※住宅は22年4月からマイナス継続
◇不動産新規着工面積:27.8%減 うち住宅:28.7%減
※同21年8月からマイナス継続
◇不動産竣工面積:20.7%減 うち住宅:21.9%減
※同24年2月からマイナス継続
◇不動産販売面積:19.4%減 うち住宅:23.4%減
※同23年6月からマイナス継続
◇不動産販売額:27.6%減 うち住宅:30.7%減
※同23年8月からマイナス継続
◇商品不動産在庫面積:15.6%増 うち住宅:23.9%増
※同21年10月からプラス継続
二桁の減少(増加)が多く、振れ幅が大きくなりました。「資金不足⇒開発が伸びない⇒着工・竣工も不振⇒販売は減少⇒在庫は増加」という負のサイクルに入っています。不動産デベロッパーは、販売で得た資金を次の投資に回すのが王道ですが、販売不振から資金回収ができない、あるいは割引販売をしたため当初の目標収益に届かない、などの事情から、さらなる投資余力が残っていないようです。
住宅の竣工面積は、23年はプラスが続いていました。背景には、「保交楼」という不動産の引き渡し保証政策があります。これは、デベロッパーの資金難で建設が中断していた物件について政府が完成と引き渡しを支援するもの。要は、「早く作りなさい」とハッパをかけられて再開したプロジェクト分が加算されていたのです。しかしながら、このデータも24年に入りマイナスに逆戻り。昨年の比較値が高かったという理由があるのかもしれませんが……。
資産効果が大きい不動産
消費者側から気になるのは価格動向です。3月の70都市新築住宅価格指数は前年同月比2.65%低下。22年4月から前年割れが続いています。都市レベル別で見ると、大都市が多い一線級が同1.5%低下、二線級が同2.0%低下、三線級が同3.4%低下となりました。全国的に価格下落の波が訪れており、市民の消費マインドに大きな影響を与えているようです。
多くの中国人は「不動産価格は上昇するもの」という信仰に近い思いを持っています。実需以上に投資的側面が重要視されるのも特徴です。ただ、これらの概念は今後、やや薄れてくるかもしれません。今はその過渡期と見られますが、不動産業界の新しいステージ、いわばニューノーマルへの変遷期に当たり、市民が戸惑っている感もします。
昨年、地方都市でマンションを購入した知人。価格下落が進む中、「今が底!」と見て思い切って買ったとのことですが、購入時からさらに5%ほど下がりました。「もうちょっと待てば良かった……」とガッカリしていますが、このようなストーリーも中国各地で繰り広げられていそうです。
前回のこのコーナーでも取り上げた、中国人民銀行(中央銀行)による預金者アンケート。市民の不動産価格見通しは、直近で「下落」が「上昇」を上回っています。仕方ないことですが、これが市民のホンネ。政府の後押し政策とは裏腹に、なかなか前向きになれないのも事実でしょう。
株と並び、資産効果(資産価格の上昇や下落が消費動向に影響を与える効果)が大きいと言われる不動産。中国消費の戻りは不動産市場の復活が前提と言われる所以です。冒頭の指標が一つでも(1カ月だけでも)改善してくれれば、市民のマインドがやや改善すると思うのですが、それがいつになるかはまだ分かりません。