就職難の現実
中国の学校は9月に新学期を迎えます。上海の街は相変わらず家族連れの観光客で賑わっていますが、徐々に夏休みモードから新学期モードに変わりつつある気がします。9月スタートということは、卒業シーズンは6月から7月。今年は新規大学卒業者が1170万人に上ったとのことです。巷では経済不振を背景とした就職難が話題になっていますが、実際はどのような状況なのでしょうか。
大卒者の就職事情について中国の知人(30代男性)に聞いてみると、開口一番「厳しいみたい……」と返されました。ため息をつきながら、「就職率は50%以下かもしれない」とも言っていました。根拠やデータはありませんが、市民の肌感覚はこのようなものでしょう。
人材会社の智聯招聘の調査によると、今年の大卒就職率は55.5%ということです(8月時点の報道より)。昨年の57.6%をさらに下回る低い数字。ざっくり言うと、新卒者の約2人に1人は就職先が決まっていません。一方、同じ調査では、「具体的な計画がない(慢就業=ゆっくりと就職先を探す)」とする者が全体の19.1%を占め、フリーターを選ぶ者も13.7%いました。働き方の多様化と言えばそれまでですが、大学を卒業したものの希望の働き口がなかなか見つからないという現状を示していそうです。
ちなみに、新卒者の希望就職先は、国有企業が47.7%、民間企業が12.5%という結果でした。2020年の調査では、国有が36.0%、民間が25.1%と拮抗していましたが、安定志向の強まりから国有企業人気が高まっているようです。公務員試験の倍率も年々上昇中です。
さえない雇用見通し、今は我慢の時間
中国の都市部失業率は、24年7月時点で5.2%と比較的安定しています。ただ、16~24歳(学生を除く)に限ると17.1%。前月比で3.9pt上昇しました。前述のように中国では夏場が卒業シーズンなので、新卒者が労働市場に参入する時期の上昇は想定内ですが、それにしてもやや高い数字です。“コロナ前”の18年や19年は、「学生を加えた値」でも10%台前半でしたから、それと比べても雇用状況の悪化がうかがえます。
中国人民銀行(中央銀行)が行った都市部預金者アンケート(24年4~6月期)によると、雇用実感について「厳しい状況・就職難・判断できず」と答えた者が48.1%に上りました。こちらも“コロナ前”の19年の30%台から大きく上昇しています。「比較的良好な状況・就職容易」と答えたのはわずか9.6%。地方部ではさらに厳しい認識と思われます。
このような状況下、中国ではこの夏、とある映画が話題になりました。その名も「逆行人生(Upstream)」。IT企業でプログラマーとして働いていた40代男性が突然のリストラに遭い、再就職や生活費を稼ぐために奮闘するストーリーです。
主人公は「70後(1970年代生まれ)」ですが、企業の面接に行っても周りは20代の若者ばかり。“おじさん”の彼は年齢制限に引っかかり、問答無用ではじかれてしまいます。そこで思い付いたのがフードデリバリーの配達員への転身。家族を養い、住宅ローンを返済するために一念発起します。劇中では、配達1件で6元(約120円)の収入となっていましたが、彼の目標は月収1万5000元(約30万円)。ちょうど住宅ローンの返済に相当する額です。果たして目標達成なるか……。
後ろ向きの話ばかりですが、若者も中年も雇用市場の急変に困ったり戸惑ったりしているのが現実です。一流企業でも、給料据え置きどころか減給になったりする例が報告されています。それでもリストラされないだけマシと言えるでしょうか。
高度経済成長に慣れた中国の人は、「昨日よりも今日が良くなる。明日は今日より良くなる」のような前向きかつ楽観的な見通しで過ごしてきたと思います。来年の給料はもっと増えるはずだから、やや背伸びした消費を楽しみ、将来の明るいライフプランを設計してきました。ただ、ここに来て一旦停止。現実を見ながら、財布の紐をやや堅めにしている気がします。景気全体や市民の消費動向を左右する不動産市場の底入れは間もなくと思われますが、それまでは我慢の時間がもう少々続きそうです。