消費マインドはやや改善も……
「デフレ懸念、不動産バブル、投資減退、節約志向」――。最近、中国にまつわるニュースでこれらのキーワードをよく見ます。一方、一般市民の考え方や消費動向などはなかなか計り知ることができません。果たして市民の景気に対する“温度感”はどのようなものなのでしょうか。その一端を探るべく、中国人民銀行(中央銀行)による都市部預金者アンケートを基に景況感やお金の流れを読み解いてみます。
同調査は中国人民銀行が全国50都市の預金者2万人を対象に実施しており、原則的に四半期に一度行われます(2月、5月、8月、11月の下旬)。ただ、2023年6月29日に同年4~6月期の結果が発表された後、なぜかアップデートが遅れていました。もしかしたらこのまま調査自体が終了してしまうのでは……とも思われましたが、今年3月22日に「23年7~9月期」と「23年10~12月期」分がまとめて公表されました(なぜ遅れたかの説明はありません)。
直近の23年10~12月期の調査結果によると、市民の貯蓄志向が依然として高いことが分かります。「消費」「貯蓄」「投資」への意欲を問う三者選択方式の設問で、貯蓄を選んだ者は全体の61.0%(前四半期から1.2pt低下)。新型コロナ禍を経ての先行き不安から2020年に50%を超え、ゼロコロナ政策の行き詰まりや感染拡大が進んだ22年以降は60%超になるケースも目立っています。市民の安全志向の高まりが読み取れます。
一方、消費は前四半期から1.4pt上昇し23.3%となりました。消費マインドの改善がややうかがえますが、“コロナ前”の19年10~12月期は28.0%だったため、完全復活とは言い切れないでしょう。投資は15.6%(前四半期比0.3pt低下)と低迷中です。経済指標の伸び悩みや株式市場のさえない展開が背景にあると見られます。かつては40%を超え、貯蓄意欲を上回ることもあったのですが……。なお、投資方式としては、「銀行・保険・証券会社が取り扱う理財商品」が42.4%、「ファンド・信託商品」が18.4%、「株式」が13.8%となっています。
マンション購入は「今じゃない」?
消費についてさらに細かく見てみます。「向こう3カ月間で支出を増やす項目」という設問(複数選択)に対し、「医療・保健」と答えた者は28.4%、「教育」は27.8%でした。この2項目は常に上位に位置しています。「旅行」は21.9%と前四半期比4.2pt低下しましたが、これは季節性にも関係してくるでしょう。観光シーズンを前にしたときは高まりやすい傾向にあります。19年には旅行が支出意欲のトップだったこともあり、今後のさらなるニーズの戻りが期待されます。
「付き合い・娯楽」は20.9%となり、直近では初めて20%の大台を超えました。19年の水準も上回っています。コロナ禍を経て、人に会ったりイベントなどに参加する重要性が再認識されていると言えましょうか。
一方、底打ちの兆しが見えていた「高額品」「不動産」は低下しています。20年以降で見ると、いずれも最低水準。景気の先行き不透明感から、財布の紐が堅くなっているのかもしれません。市民は現実的な消費を志向しているということでしょう。
同じアンケート調査の中に不動産価格の見通しを問うものもありました。これによると、「下落」と答えた者が20.2%に上り、「上昇」の12.0%を大きく上回りました(このほか、「基本的に不変」が53.9%など)。下落が上昇を上回ったのはこれで3四半期連続。市民はマンション価格の動向にネガティブな見方を抱いているようです。価格がまだ下落すると想定し、買い控えの心理が働きやすい状況とも言えそうです。
中国は統計データやアンケート調査などが必ずしも多くなく、不備も目立つとされています。その意味では、今回のアンケート調査は貴重な部類。これらの結果に現地の“肌感覚”を加味しながら、中国経済の現在地を引き続きウォッチしていきたいと思います。