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【気になるテーマ解説】成功率3万分の1? 新薬開発の過酷な道のり

2020年以降、新型コロナウイルスが世界中で大流行し、その影響がいまでも尾を引いているのは誰もが知るところです。当初は大混乱となりましたが、新型コロナについては世界各地でワクチン開発が進められ、過去に例を見ないスピードで完成へと漕ぎつけました。


世界では、コロナ以前もさまざまな感染症が猛威を振るっています。インフルエンザをはじめ、マラリアやエボラ出血熱、WHO(世界保健機関)により根絶宣言された天然痘なども感染症の1種です。

もちろん病気は感染症だけでなく、がん、急性心筋梗塞、脳卒中といった3大疾病や、糖尿病などの生活習慣病、アルツハイマー型認知症、エイズや梅毒といった性病など並べるとときりがありません。


国内における主な死因(2021年)

 

出典:厚生労働省


創薬の厳しい道のり


今の時代、日本人のうち2人に1人はがんになる(国立がん研究センター推計)ともいわれていますよね。医療や衛生、予防が発達することで助かる命も増える一方、時代を反映した病気が増えてしまうのは世の常です。平均寿命も延びており、生まれてから死ぬまでずっと健康という人の方が少ないでしょう。


生物である限り何らかの病気のリスクにさらされてしまうものですが、これに対して、たくさんの研究者・企業が病気を治す新薬の開発に心血を注いでいます。あんな薬があればいいのに・・と誰もが1度は思ったことがあると思いますが、新薬が完成するには非常に長い道のりとなります。


上場している創薬ベンチャーは多いものの、開発に成功したという事例は少ないですよね。投資テーマとしても人気な創薬ですが、一方で痛い思いをする投資家が多いのも事実です。


3つの段階

創薬には、大きく分けて「探索研究」「開発研究」「臨床研究」の3段階があります。


「探索研究」は薬の候補となる化合物をつくり、薬になり得るかを調べる段階です。例えば、アミノ酸が2種類以上つながった物質「ペプチド」を使った医薬品がありますが、自然界には約500種類のアミノ酸があるとされています。

この中から2種類を選んだ組み合わせはなんと12万4750通り。3種類では2070万8500通り、飛んで6種類だと21兆576億8672万7000通りと天文学的な数値になります。

砂漠の中から砂金1粒を探し出すようなものであり、新薬の可能性がある新規化合物を見つけるだけでも、尋常ではないということが分かりますね。


「開発研究」では、動物や細胞などに対し、薬の候補物質を使う非臨床試験を行います。ここで、薬効や毒性などについて研究します。効果を確認できるまでには時間がかかりますし、重篤な症状が出てしまったり、効果が見られなければまた振り出しに戻りかねません。


最後は「臨床研究」です。察しが付くと思いますが、人間に対して実験を行います。よく治験と言われていますよね。臨床試験は1回で終わるわけではなく、フェーズ1(第1相)~フェーズ3(第3相)に分かれて行います。


それぞれのフェーズで実施する内容は

第1相臨床試験(フェーズ1)

健康な成人に少量ずつ投与し、新薬候補の安全性や副作用などを調べます。この際、被験者に変化が出たとき、本当に新薬候補による効果かどうかを見極めるためのプラセボ(有効成分が入っていない薬)も併用することもあります。


第2相臨床試験(フェーズ2)

小人数の患者に対して新薬候補を投与し、安全性や副作用を調べます。この時にもプラセボを併用することが一般的とされています。


第3相臨床試験(フェーズ3)

多数の患者に対して新薬候補を投与し、有効性などを検証します。現在使われている標準的な薬やプラセボなどと比較し、新薬候補に優位性があるかなども検証されます。



各フェーズでは臨床評価項目(エンドポイント)が設定されており、これの達成に向けて試験が進められます。複数の評価項目がある場合には、プライマリーエンドポイント(主要評価項目)とセカンダリーエンドポイント(副次的評価項目)が設定されることも。企業のリリースでも「主要評価項目」というワードがよく出てきますよね。


第3フェーズまで終了した後は、データを国に提出して、審査を待ちます。ここを通過できれば、はれて新薬として世の中に普及させることができます。それぞれの段階を合わせると、着手から販売まで一般的に10年~15年はかかるとされており、開発費用も何十億円~何百億円、ものによっては何千億円とかかります。非常に険しい道ですね。


出典:厚生労働省


株主にとっても険しい道

前述の通り新薬の完成までには途方もない時間と莫大な資金がかかり、新薬が本当にできるかも分かりません。このため、上場している創薬ベンチャーへの投資はハイリスクの代名詞ともいえます。


新薬開発を開始→非臨床試験終了→フェーズ1→フェーズ2→フェーズ3と進んでいくごとに期待感が膨らみ、株価も大きく上昇していきます。そして、失望とともに暴落していくこともしばしばです。


過去に起きたサンバイオショック(日足)

 


サンバイオ<4592>は再生細胞薬の開発メーカーですが、2018年11月に「外傷性脳損傷」の治療薬として開発中の新薬候補「SB623」が第2相試験で主要評価項目を達成したと発表。次は第3相の進み、新薬誕生か!?との期待から連日ストップ高となるほどの買いが殺到しました。発表前と後では一時4倍近くまで上昇する場面もあり、当時のマザーズ市場で時価総額1位となることも。


しかし、翌年1月には「慢性期脳梗塞」を対象にした日米グローバル第2相試験で主要評価項目が未達だったと発表。対象は違うものの、今までの期待感が一気にはじけ飛んだ結果4日連続ストップ安の事態となりました。信用取引で買い建てをしていた投資家も多かったことから、追証による破たん者が続出するとの懸念まで浮上することに。


資金繰りも大変

新薬の成功失敗で株価が乱高下するバイオ株ですが、基本的には新薬の開発に成功し、販売できない限り売り上げを立てられません。開発には億円単位の費用が掛かりますし、とてもではありませんが手元資金では回らないですよね。


バイオベンチャーは、銀行借り入れや非上場時の出資によって資金繰りを行うだけでなく、

上場によっても資金調達を行います。それで開発に成功すれば万々歳なのですが、そう上手くはいかないのが実情。

開発資金がなくなれば再び調達する必要がありますが、銀行が貸し渋るときは新たに株式を発行する(増資)ことで資金調達を行うケースがほとんどです。増資を行うと既存株式の価値が希薄化するおそれがあるため、それを嫌気した投資家に売られやすくなります。


新株予約権による増資を発表した例

カルナバイオサイエンス<4572>

 

カルナバイオサイエンスはキナーゼという酵素の一種を用いた創薬事業などを行っていますが、2022年11月22日に第三者割り当てによって新株予約権を発行すると発表。臨床試験費用として約28億円を調達するとしました。


新株予約権の行使によって発行される潜在株式数は338万6500株のため、すべて発行された場合、既存株式の希薄化率は約25%となります。この結果、株価は急落。開発失敗ではないものの、発表前に買った投資家は大きな含み損です。


うまくいけばwinwinだが・・・

ここまで解説してきたように、バイオ株への投資は大きな利益となる可能性もあればその逆もしかり。ただ、1単元で数万円~十数万円の銘柄も多く、比較的投資しやすい金額でもあります。十数万円で新薬開発に協力できる!と割り切るくらいの気持ちで投資するのがベターでしょう。くれぐれも欲に負けて全掛けしないよう気を付けたいところです。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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