気になるテーマ解説

日本の水道管は地球30周分

埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故をきっかけに、日本のインフラに対する懸念が急速に高まることとなりました。日本では水道管の多くが高度経済成長期(1950~1970年代)に敷設され、50年以上経過した配管が急増しています。


たまたま自分のところで発生しなかっただけで、誰もが同じような被害を受ける可能性があるということは恐怖でしかありません。どうにかならないのか?と思うこともありますが、日本ではすでに2014年(平成26年)に「国土強靱化基本計画」が閣議決定されています。地震や台風、豪雨などの自然災害への対策を強化し、社会基盤や生活の安全性を高めることなどが目的であり、これまでに流域治水対策や空港の耐災害強化、電力供給の安定化などが実施されているようです。


なお、2023年(令和5年)には新たな国土強靱化基本計画が閣議決定され、基本方針に「デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化」「地域における防災力の一層の強化(地域力の発揮)」が追加されました。


出所:内閣官房 国土強靱化基本計画(令和5年7月28日閣議決定)


このように国としても対策していないわけではありませんが、老朽化した全国のインフラをすべて改修するのは困難で、やるにしても途方もない費用と時間がかかります。数十年かけて全部終わったと思いきや、同時に新たな老朽化も進んでいる終わりがありません。


日本のインフラはどうなる?

日本は地震、津波、台風、噴火といった自然災害に見舞われやすい国です。温暖化の影響も相まって、昨今ではその被害が大きくなりやすい傾向にもありますよね。そういった災害時にもしインフラが影響を受け、二次的な被害が出てしまったら目も当てられません。


ちなみに、国土交通省による2018年時点の試算では、2048年度までの30年間にかかるインフラ維持の費用は195兆円とのことです。平均で毎年7兆円ですが、昨今の物価高を踏まえると費用はさらに増えそうです。壊れる前に対処する「予防保全」がのぞましいですが、手が回るかは何とも微妙なところ。


建設後50年以上経過する社会資本の割合を見てみると、以下のようになりました。

 

出所:国土交通省 社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト


どの項目も数や距離が尋常ではありません。水道管路と下水道管渠を合わせると、地球(一周で4万0075km)を大体30週できる計算です。自治体によって改修工事に回せる費用は限りがありますし、正直なところ全部を保全するのは無理ではないかと思ってしまいます。


国はどのように乗り切ろうとしているのか

前述のように途方もない改修は困難です。もちろん、国として何も手を打っていないわけではなく、何とか回してくための策としてコンパクトシティ政策を打ち出しています。人口減少と高齢化への対応、環境負荷の軽減、効率的な土地利用といった課題を解決し、より持続可能で効率的な都市をめざすことが主な目的です。

 

出所:国土交通省 コンパクトシティ政策について


なかでも、最もメリットが大きいと思われるのは人口減少と高齢化への対応です。土地を探している人は「市街化区域」「市街化調整区域」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。市街化区域は住みやすいようにインフラ整備などを積極的に行う区域、一方で市街化調整区域は新たな住宅地や商業施設の建設が制限される地域のことを指します。


戦後から高度経済成長期までは日本の人口は増加基調で、新興住宅地なども数多く開発されました。一方、昨今では少子高齢化、人口減少と真逆の動きになり、人が少ない地域で多額のインフラ整備をしてもメリットに乏しいのが実情です。人家が点々とするよりも一カ所にまとめてしまった方がインフラ維持もしやすく、コストも低く抑えられますよね。


国としても無尽蔵にインフラの予算を出すことはできないため、これからは日本の中で地域の取捨選択が行われていくと想定されます。市街化調整区域は各自治体から公開されているので、将来的に自分の住む地域はインフラが維持されていくのか、まずは確かめてみたほうがよさそうです。備えあれば憂いなしというように、国や自治体頼みだけにならず、個々人でも万が一の防災対策や備蓄など、意識を高めていきたいところですね。


この連載の一覧
節約志向の中で注目したい食品スーパー
日本の水道管は地球30周分
NISAでも債券投資の検討余地?
ありそうでなかったTOB(株式公開買い付け)狙いの投信が登場
HEMSとは
新しい配当基準「DOE」の採用が増加傾向
苦渋の値上げは続くのか
その優待、長く続く?
どこまで利上げする?
最近目にするAIエージェントとは?
2025年の注目テーマ3選
ハンバーガーが高すぎる?
来年はへび 変化の年は課題も山積み
神戸で市立中学校の部活動が終了 民間企業に求められることは?
持ち合い解消の流れが一段と加速
令和7年度の住まい補助は「子育てグリーン住宅支援事業」に
自社株買いの良い影響を考えてみる
AIが人の1万倍賢くなる?
手取りが増えたら何をしたい?
気を付けたい権利取りのポイント
【気になるテーマ解説】DX銘柄も生成AI活用が必須に
来年のNISA枠はどうする?
投資促進の一方で詐欺被害も多発
市場予想との付き合い方
政策保有株の解消良し悪し
「地面師たち」が大ヒット 厳しい日本の土地事情
7分の1は空き家の日本
QUOカードはなぜ人気なのか
住宅ローン人気銀行の動向まとめ
米大統領選、どこに恩恵?
中小型株への資金回帰が鮮明に
国際会計基準のルール変更へ 営業利益が分かりやすく?
新紙幣の発行開始でキャッシュレスが進む?
次世代自動車「SDV」とは?
マンション価格下落も依然高い そういえば晴海フラッグは?
プロが注目する配当株は?
出生率が過去最低を更新 止まらない少子高齢化
日本の長期金利が1%台に 今後の影響は?
日経平均と半導体株の関係
株式分割は本当に好材料なのか
株価は割高なのか? 指標を参考にしてみる
新興市場をざっくり振り返ってみる
金が人気の背景とは?
東京都の予算
マイナス金利解除が決定 マーケットへの影響は?
長期投資は我慢比べ
アクティブETFのその後
シリコンアイランド九州は復活か
政策保有株式の売却が進む(2)
決算プレーと自動売買
配当株投資の怖いところ
インターネット広告に試練 Cookie規制とは?
ロボアドバイザーの先駆け ウェルスナビの実力は?
優秀なインデックスファンドとは?
辰年は上がりやすい?
新NISA 注意したい配当金と分配金
新NISA 流行の積み立てと為替リスク
コスト最安の日本株アクティブファンドが登場
NTTが推進するIOWN構想とは?
政策保有株式の売却が進む
歯の健康は全身の健康 病気は未然に防ぐ時代へ
MSワラントの恐怖
配当金が保険料の賦課対象に?
今年は暖冬の予報 マーケットへの影響は?
投信の超低コスト競争に拍車
建設業界と2024年問題
積み立て投資との相性良し悪し
住宅ローンの借り入れは計画的に
東証スタンダード市場の選択申請が増加中
長期金利と株価の関係はよく言われるが・・・
国内初のアクティブETFが誕生
魚が高すぎて買えません
配当方針いろいろあります
太陽光発電は自家消費へ
メタの新SNS「Threads」使ってみた
電池の覇権、リチウムの次は亜鉛?
SENSEX指数が最高値更新 インドってどんな国?
訪日旅行者は今後も伸びる?
半導体製造装置 1台おいくら?
変動金利型住宅ローンが実質マイナス金利へ
話題沸騰のダイヤモンド半導体とは?
著名投資家の投資候補を考察
デジタル給与が解禁! メリット・デメリットは?
私の銀行は大丈夫?
全人代が開幕 いまさら聞けない日本の中国依存度
金利上昇の懸念はあるが省エネ住宅は拡大へ
【気になるテーマ解説】 健康だけじゃない? アミノ酸の可能性
なんでも材料視する株式市場
多発する客テロ AIカメラに注目集まる
会話は人そのもの 話題の「ChatGPT」とは?
「超」高齢化社会の日本
金利に翻弄される銀行 金利の影響と債券の仕組み
出生数80万人割れへ 子育て関連株の行方は・・・
何かと注目される親子上場
【気になるテーマ解説】市場規模は無限大? 壮大な宇宙産業
【気になるテーマ解説】レベル4解禁! ドローンの普及で何が変わるのか
【気になるテーマ解説】成功率3万分の1? 新薬開発の過酷な道のり
【気になるテーマ解説】パワー半導体ってなんだ?
【気になるテーマ解説】「Web3.0」ってなんだ?

日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

畑尾 悟の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております