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新紙幣の発行開始でキャッシュレスが進む?

7月3日から新紙幣の発行が始まりました。昭和59年(1894年)11月1日から1万円札の顔として親しまれてきた福沢諭吉は、渋沢栄一にバトンタッチします。1万円持っていると言わなくても、諭吉を持っていると言えば通じるように日本では「1万円札=福沢諭吉」が深く浸透していました。慣れ親しんだ世代としては少し寂しい気もしますが、これからは「諭吉」ではなく徐々に「栄一」と呼ばれるようになるのでしょう。


他の紙幣も顔が変わります。5000円札は樋口一葉から津田梅子に、1000円札は野口英世から北里柴三郎にそれぞれ変更され、2000円札を除いて紙幣が全面的に刷新されることとなりました。新紙幣には最新の偽造防止技術が施され、目の不自由な人が指で触って識別できるようなユニバーサルデザインに仕上がっています。


不正が減る、使いやすくなるなどのメリットはもちろんありますが、一方で新紙幣に移行することで問題も発生しているようです。世間で何が起きているのか調べてみました。


新紙幣に対応できない

紙幣が変わると、ATMや両替機、運賃箱、券売機、自動販売機など、紙幣を読み込む機械は新紙幣を認識できるように更新しなければなりません。ちなみにATMは1台200万円~500万円と言われており、新車を買えるほどです。決して安いものではありません。


依然500円玉が新しくなった際には、「新500円玉は使えません」といった張り紙をあちらこちらで見ることとなりました。記憶に残っている人もいると思います。小規模な店舗などでは新機種の購入負担が大きすぎるため、機械を更新しようにもできないといった事情がありました。


これから新紙幣の流通量が増えるにつれて、ここでもあそこでも現金が使えない!といった問題が再び発生してくる可能性があります。財布に新紙幣しか入っていない場合には注意が必要となりそうですね。



新紙幣の発行開始を前に話題となったのが、電子決済のみの路線バスが解禁されるといったニュースでした。国土交通省としては、現金管理の手間がなくなることで、赤字に苦しむ事業者の経営コスト削減や運転手の業務負担軽減などを見込んでいるといいます。


なお、国交省の調査にでは、現在バスの電子決済比率は9割近いとのこと。思ったより多くの人がスイカやパスモなどのICカードを利用しているようですね。


出所:国土交通省 完全キャッシュレスバスの実証運行の進め方について(概要)


現金しか持つことができない人への対応、法律などの課題があるようですが、バスの運賃システム更新も1台で数百万円かかると言われます。バス全台の更新費用を到底支払えない事業者もいると考えられるので、バスという交通手段が存続するためにも解決が望まれます。


キャッシュレス化が進む?

バス業界だけでなく、設置台数の多い自動販売機なども機器の更新に膨大なコストがかかります。対応できないという事業者も多いと思われ、こうなるとキャッシュレス決済を推し進めていく方が合理的かもしれません。


日本では数多くの決済アプリがあり、大手のペイペイ、楽天ペイのほか、ご当地ペイなどもあります。電子マネーのiDやクイックペイに加え、ここ数年ではクレジットカード自体もタッチ決済に対応してきました。中には指輪型の決済端末「EVERING(エブリング)」といったものも出てきており、電子決済の方法は多様化しています。


キャッシュレス決済の比率

出所:経済産業省


キャッシュレス決済が主流となれば紙幣・硬貨を製造する費用は抑えられますし、盗まれるリスクも減ります。一見メリットばかりのように思えますが、キャッシュレス決済は完全無欠ではありません。


消費者側は普段気にすることがないですが、クレジットカード、●●ペイ、電子マネー決済など、これらには導入費用が掛かります。支払い額の一部も手数料になるので、小規模な事業者にとってはキャッシュレス決済に係るコストが大きな負担となりやすい傾向にあります。このため、現金のみを貫く個人店も意外と多く存在します。

また、システム障害やサイバー攻撃のリスクもあるため、100%キャッシュレスは逆に危なくなってしまいます。メインはキャッシュレスで、万が一の際の現金を持っておくことも大切ですね。


現金・キャッシュレスともに一長一短はありますが、日本は世界に比べると現金決済が多数を占めます。


出所:経済産業省 キャッシュレス将来像の検討会(概要版)


政府としては、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%をめざすとしているため、今後もキャッシュレス化を促進する政策が出てくると考えられます。国内固有の成長分野はなかなか思いつきませんが、今後の拡大余地が大きいキャッシュレス分野は、株式市場でも大きなテーマとなるかもしれません。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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