日本の株式市場では、株主優待制度が非常に人気です。優待のために株式投資を始めた人も少なくないでしょうし、優待を目当てにこれから投資を始めようと考える人もいると思います。ちなみに、株主優待制度は日本企業独自の取り組みであり、海外では基本的に優待を実施している企業はありません。
昨今では不公平をなくすために株主優待制度を廃止する傾向にありますが、安定株主を確保したいという目的から新たに株主優待制度を導入する企業も少なくありません。特に自由度の高いQUOカードはとても人気で、発表した翌日にストップ高ということも多々あります。
NISA口座で保有すれば配当金は非課税、おまけに優待ももらえるということで、1銘柄で2度おいしい感じもしますね。ただ、株主優待の魅力の裏にはリスクももちろんあります。優待目的で買ったら逆に値下がりが大きくて結局損してしまう・・・といった事態も少なくないので、今回は株主優待制度に関して気を付けておきたいポイントを考えていきます。
駆け込み乗車に注意
基本的に、どの企業も権利月最終日を決めています。この日まで株を持っていてくれたら、優待や配当を差し上げますという基準日ですね。売買の受渡日(約定日を含めて3営業日後)が基準となるので、例えば3月31日を基準日としていたら29日までに買い注文を約定させる必要があります。29日はいわゆる「権利付最終日」です。
権利付最終日をまたいで翌30日に売れば、受渡日は4月1日となるので株主でなくなったとしても優待・配当の権利は残ります。その特性を生かし、少ない資金で複数の優待を獲得するといった投資家は意外と多いです。
こういった事情があってか、権利落ち日になると上記の投資家が一斉に売り注文を出す傾向にあります。売買が活発な大型株であればそこまで下がらないかもしれませんが、日々の出来高が少ない小型株は極端な値動きとなりやすいです。
あの株の優待が欲しかったのを忘れていた!ということで、権利付最終日の近いところで買ってしまうこと、すぐに株価が大きく下落する可能性が高まります。例えば、1000円分のQUOカードをもらうために1万円の含み損を出してしまったら元も子もないですよね。
権利付最終日へ近づくにつれて権利取りの買いで株価は上昇する傾向にあるため、駆け込み乗車による怪我には気を付けたいところです。
ちなみに、今年10月の権利落ち銘柄を一部取り上げてみるとこのような結果になりました。もちろん、すべての銘柄が値下がりするわけではありませんが、権利落ち日の値下がりは大きくなりやすいことが分かります。
※株価は10月30日終値 配当や優待は同日時点の内容
気を付けたいクロス取引のコスト
優待目的の投資では、クロス取引を活用する投資家も多いです。何それ?と思う人もいると思いますが、簡単に言うと権利落ち日の値下がりによる損を極力減らそうという取引のことです。
通常は現物取引で優待銘柄を買うだけですが、クロス取引は現物の買いと信用取引の売り(空売り)を同時に行います。空売りは値下がりしたら儲かる取引です。同じ株価・株数で現物買いポジションと空売りポジションを組むことで、プラスとマイナスが帳消しになりますよね。この仕組みによってほぼノーリスクで優待をゲットすることができます。
ただ、クロス取引も完璧な方法ではありません。空売りできるかは銘柄によって異なり、貸借銘柄(制度信用取引で買い・売りどちらも可)、貸借融資銘柄(制度信用取引では買いのみ可)、いずれも該当なし(一般信用取引のみ)に分かれます。
空売りできない銘柄ではクロス取引ができないため、まずは該当銘柄で可能かどうかを調べておく必要があります。制度信用取引で空売りができなくても、一般信用取引(証券会社の独自ルールで実施するもの)なら空売りができる場合があります。証券会社によって手数料が異なることには注意です。
何より気を付けたいのが、逆日歩(品貸料)の発生です。空売りはどこかから株を調達して市場で売る取引なので、借りられる株がないとできません。基本的に証券金融会社から借りることになりますが、空売りが殺到すると証券金融会社も株不足になります。
そうなると証券金融会社は外部から株を調達してくる必要があるので、空売りする投資家に対して費用を求めます。これが逆日歩(品貸料)です。「1日あたり1株に対していくら」という形で発生します。
出所:トレーダーズウェブ 銘柄コード順
例えば1株1円かかるとして、10日空売りを続けたら10円です。株価が動かなかったとしても実質的に10円値下がりしていることになるので、逆日歩が高すぎるとクロス取引によるリスクヘッジの意義が薄まる可能性があります。
東証スタンダードや東証グロースの銘柄は、一般信用取引のみの銘柄が多いです。一般信用取引は証券会社ごとに手数料が違い、クロス取引をするメリット以上にコストがかかる場合もあるため十分に注意したいところ。逆日歩があるかどうかは各証券会社や日本証券金融、株式サイトなどで確認できるので、クロス取引をしている間は日々チェックすることが大切です。