自社株買いと言えば、基本的には好材料と受け止められます。株価の反応は発行済み株式数に対して何%分を買うのか?といった点によりけりですが、発表後は上昇で始まることが多いですよね。そういった材料のため、自分が持っている銘柄が自社株買いを発表したら嬉しい限りです。
自社株買いは日々どこかしらの企業が発表していますが、決算発表と同時であることが多いです。ちなみに、2024年7-9月の決算シーズン(10月25日~11月19日)で発表された自社株買いを集計してみると250社となりました。多少の誤差はあるかもしれません。今回は自社株買いが発表された後、株価にどのような影響があるのか考えてみます。
株価を下支えしてくれる
自社株買いの方法はいくつかあり、市場で買い付ける方法、立会外買い付けによる方法、自社株のTOB(公開買い付け)などがあります。この中では市場で買い付ける方法が特に好感されやすい印象です。
自社株買いは、言い換えれば「今の株価は会社として安いと思っています」とも受け取れるので、自社株買いを発表した直後の株価水準よりは下がりづらくなるかもしれない?といった心理が働きやすくなります。
実際、日中の値動きを見ると短時間で急上昇している瞬間があるので、企業が株価を支えてくれるといった安心感から投資家の買いを後押しする効果があります。なお、数日で一気に買う企業もいれば、買い付け期間中にちょこちょこと買う企業もいます。
一気に買った例 アクシージア<4936>
※会社開示資料を基に弊社作成
上のチャートは化粧品メーカーであるアクシージアのものです。同社は決算発表で急落しましたが、その後に自社株買いを発表。50万株・3億円を上限とし、取得期間は2024年9月24日~25年1月31日。自己株式を除いた発行済株式総数に対する割合は最大で1.99%となります。
一方、9月30日に自社株買いを終了したと発表し、9月24日~27日の4日間(チャートの赤枠)で48万6600株・総額2億9999万7600 円で買い付けました。チャートを見てわかる通り4日間で株価は大きく上昇しており、開示資料から自社株買いによるものだったことが分かります。ここまで顕著なのはなかなかありませんが、そういった事例もあるのが市場買い付けによる自社株買いです。
需給が引き締まる
自社株買いでは、市場に出回っている株を買い付けることが多いです。前述した市場買い付けに限らず、立会外買い付け、自社株のTOBについても需給を引き締める効果があります。
例えばトヨタが発行済み株式数の99%を取得するとします(現在の株主構成やルールを無視したあり得ない例です)。そうなると投資家は発行済み株式の内1%(現時点で1.6億株程度)しか売買できません。
すると、売買に参加する投資家がぐんと減りますよね。トヨタに関する好材料が出た時、安く売ってくれる投資家が減ることにもなります。高い値段で注文しないと約定できません。要は需要が供給を上回る状態です。
コロナ禍でマスクが高騰したのも需給がひっ迫したため。株価が上昇するのは需要>供給の状態ですが、市場に出回る株数が少なくなるとその状態になりやすくなります。教科書的には、自社株買いを実施すると需給が引き締まりやすいと言えます。
配当が増える期待
前述の通り、自社株買いを実施すると市場に出回る株数が減ります。自己株式(企業が保有する自社株)は金庫株とも言われ、市場で売買されることがありません。このため、1株あたりの純利益(EPS)を計算する際にも自己株式は除いて計算されることが一般的です。
例えば純利益10億円で、自己株式を除く発行済み株式が1000万株の企業があったとします。10億÷1000万なので1株利益は100円です。そのうち200万株の自社株買いを実施すると、10億円÷800万株なので1株利益は125円に増加します。
もし、その企業の1株利益のうち配当に回す割合(配当性向)が40%だったとしたら、1株利益100円の場合は配当40円。1株利益125円だったら50円に増えます。自社株買いを実施する前の期、実施した後の期で利益水準が同じであれば、後の期に増配となる期待が高まると言えます。
ただ、利益水準は一定ではありませんし、利益に関わらず会社の判断で配当は横ばい、増配、減配のどれもあり得ます。業績が落ち込んだことへのお詫びとして自社株買いを発表することもあるので、継続的な利益成長が見込める企業の見極めが重要ですね。
これまでの考えをまとめると、自社株買いは発表直後、その後も中長期的に良い影響が期待できそうです。もちろん、自社株買いを発表した企業すべてが良いというわけではありませんが、銘柄選別のための有益な判断材料にはなりそうです。