気になるテーマ解説

AIが人の1万倍賢くなる?

最近、ショッキングなニュースがありました。米グーグルが提供する対話型AI(人工知能)の「Gemini」が、質問者に対して「どうか死んでください」と返答したとのこと。各メディアが報じるところによれば、学生が課題のアドバイスを受けるために「Gemini」と会話を繰り返していたところ、前述のような回答があったようです。


詳細は省きますが、googleはすでに対応を行ったとのことです。生成AIも完璧ではないので回答作成に何らかの問題が生じることはありそうですが、筆者が同じ立場になったとしたら同じように衝撃を受けていたと思います。


とはいえAIが急速に賢くなっているのは事実で、SFのような世界に段々と近づいてきたなと感じるところがあります。人は好奇心旺盛な一方、得体の知れないものを忌避する傾向もあります。


まだAIの普及は黎明期であり、受け入れられない人も多いでしょう。ただ、これから5年、10年後になると認識も変わっていき、日常生活で広く使われていくことになるのかもしれません。株式市場においてもAIは大きなテーマで、経営者の中で特にAIを力説するのがソフトバンクグループ会長の孫正義氏です。


孫氏が掲げるASI

自身を大ぼら吹きと自称する孫氏ですが、毎年の株主総会は非常に人気です。YouTube公式チャンネルに投稿された第44回定時株主総会の再生数は、24年11月下旬時点でなんと21万回。上場企業の公式動画でこれほどの再生数になることはなかなかありません。


筆者も孫氏の話は面白いと感じますし、会場で笑いも起きるなどお堅い株主総会とはちょっと違った雰囲気が魅力的です。ちなみに、上記の株主総会で孫氏が力強く主張したのはAIでした。


孫氏はこれまでにAGI(Artificial General Intelligence 人類叡智総和の10倍)を語り、人間における天才と同等のAIを主張してきました。その後、24年の株主総会ではASI(Artificial Super Intelligence 人工超知能)をめざすと力強く説明。ASIは孫氏の造語ですが、人間の1万倍賢い人工知能を指すようです。


ソフトバンクの説明によると「AGIが天才的な頭脳を持つ人間だとすると、ASIはAGIが脳の神経細胞のようにつながることで、AGIの1万倍の賢さを持つもの」とのこと。人間は金魚の1万倍のニューロン(脳の神経細胞)を持つため、ASIが実現すれば人間は金魚程度の知能というイメージらしいです。


シンギュラリティ(技術的特異点)という言葉があり、これはAIの知能が人間を上回る瞬間点を指します。AI研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏が2045年にシンギュラリティーに到達すると予測していると言われていますが、孫氏いわく、ASIの実現は10年以内とのこと。


大ぼらとなるのかはその時にならないと分かりませんが、技術進歩のペースを考えるとあり得ないことではなさそうです。想像力に乏しい筆者としては、なんだかすごそうとしか考えられませんが、現在から大きく進んだ世の中になりそうなことは分かりますね。


AIの市場規模は右肩上がりに

AIの話題が急激に増えたのは、米OpenAIが生成AI「ChatGPT」をリリースした2022年終盤からです。そこから株式市場においてもAIが一大投資テーマになり、企業も続々とAI関連の投資に動き出しました。


 

出所:総務省 令和6年版「情報通信白書」第9節 AIの動向


AI関連の投資は幅広い分野に波及しており、株式投資をしていなくてもエヌビディアを知る人は多いと思われます。日本の株式市場でも「この会社がそんなに伸びているの!?」と驚く事例があります。


例えば電線メーカーのフジクラ(5803)が象徴的でした。電線とAIの結びつきはイメージしづらいですが、生成AIの普及・拡大を背景にデータセンター向けの電線需要が非常に強いようです。生成AIは電力を大量に消費するので、電源の確保も必要不可欠。そこにも電線が必要となります。


そういった理由から2024年は業績と株価が大きく上昇していますが、「ChatGPT」がリリースされた当初、フジクラの株価は1000円前後。株価が大化けするとは、当時は誰も想定していませんでした。


フジクラ(週足)

 

出所:トレーダーズ・ウェブ


AI市場への期待は非常に大きく、何兆円という単位で伸びていくことが予測されています。総務省が発表した令和6年版「情報通信白書」を見てみると、研究をリードしている国別AIランキングでは米国が1位、次いで中国、イギリス、ドイツ、カナダの順となっており、日本は毎年11~12位となっているようです。低すぎるというわけではないものの、リードしているとは言いづらいところ。


ただ、日本にはAI普及を裏で支えるフジクラのような企業がほかにもたくさんあるはずなので、これからいっそう注目されそうな企業を探すのも面白そうですね。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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