日本経済新聞電子版が7月10日に、国際会計基準(IFRS)で損益計算書の開示ルールが2027年度から大幅に変わると報じました。あまり気にしたことがない人は多いかもしれませんが、決算短信を読み込む人はIFRSを目にする機会が多いでしょう。
出所:ソニーグループ 2024年3月期決算短信
グローバル化が進む中ではIFRSを適用する企業も増えていますので、IFRSがどのようなものか、今後のルール変更でどのようなことが起きるのかを考えていこうと思います。
国際会計基準(IFRS)とは?
IFRSは英国に拠点を置く国際会計基準審議会(IASB)という非営利組織が策定しました。EU加盟国の上場企業はIFRSの適用が義務付けられています。日本企業は任意で適用できますが、トヨタ自動車やソニーグループ、日立製作所など世界的に活躍する企業はIFRSを適用していることが多いです。ちなみにIFRSを適用している日本の上場企業は2024年6月末時点で279社。全上場企業のうち大体7%くらいです。
日本企業にとっては、IFRSを適用することで海外から資金調達をしやすくなるなどのメリットがあります。世界共通の会計基準であれば、海外から見ればわかりやすいですよね。政府としてもIFRS の任意適用企業の拡大を促進するといった閣議決定をしており、今後適用する企業は徐々に増えていくことが想定されます。
IFRSと日本基準の違い
IFRSと日本基準を見比べると、まるっきり違う!というわけではありませんが、ちょこちょこと違いが出てきます。日本企業の多くは日本基準を採用しており、決算短信1枚目を見ると経営成績は「売上高」「営業利益」「経常利益」「純利益」の4項目に分かれています。
利益項目を簡単に説明すると、営業利益は本業の儲け、経常利益は利息や配当金など本業以外の収支を踏まえたもの、純利益は特別損益と税金を踏まえたものです。こちらは見慣れた人も多いと思いますので、日本人にとってはしっくりきますよね。
一方、IFRSになると経営成績の項目が変わってきます。
出所:日立製作所 2024年3月期決算短信
上の画像は日立製作所の決算短信ですが、日本基準では見かけない項目が複数ありますよね。売上高の部分も売上収益に名称が変わっています。また、調整後営業利益やEBITAは各企業が独自で出しているものなので、全社共通ではありません。日本基準は「細則主義」
、IFRSは「原則主義」を採用しているといった違いなどからきているものですが、難しい話は置いておきます。とりあえず、IFRSの方が自由度が高いと思っていただければ大丈夫です。
ルール変更でどうなる?
今回のIFRSルール変更では損益計算書の仕組みが修正され、営業利益の定義が標準化されます。特に大きな影響になりそうなことは、営業利益に持ち分法投資損益が含まれなくなることです。子会社ではないものの、全体の業績に影響が大きいグループ会社は持ち分法適用関連会社となります。持分に応じて、そのグループ会社の損益を連結業績に計上するといった流れですね。
日本基準だと、持ち分法投資損益は営業外収益として経常利益の計上項目にありました。IFRSだと経常利益という項目はなく、営業外収益に計上するという概念もないので、営業利益に持ち分法投資損益を計上するかしないかは企業の自由でした。これが変更され、2027年度以降は持ち分法投資損益を営業利益に含めないということになります。
このため、これまで営業利益に持ち分法投資損益を計上していた企業は、27年度と26年度の差が大きくなる可能性があります。事情をちゃんと把握していないと混乱するかもしれません。
ただ、今回のルール変更によって、本業の利益がいくらになったのかが分かりやすくなります。日本基準の営業利益と全く同じというわけではありませんが、今後はIFRS適用の上場企業も日本基準と似たような感覚で見ることができそうですね。
自由度が高いとその企業の実態に沿った経営成績を公表しやすくなりますが、恣意的な表現が混じってしまうおそれがあります。ルール変更によって同じ土俵となることで、投資家も投資判断がしやすくなることに期待します。