気になるテーマ解説

変動金利型住宅ローンが実質マイナス金利へ

日銀による金融緩和の修正についてニュースになるたび、必ずと言っていいほど住宅ローンも話題になります。2022年12月に日銀がYCC(イールドカーブコントロール)を修正したため、長期金利が上昇しました。フラット35などに代表される固定金利型の住宅ローンは、これを受けて新規借り入れの金利が上昇しましたね。


一方で、政策金利はマイナス金利に据え置かれているため、これの影響を受ける変動金利型の住宅ローンは各行とも現時点では金利水準を引き上げていません。いつか来るであろう政策金利のプラス化によって変動金利も上昇すると考えられますが、まずはYCCの再修正が先となり、政策金利の修正はしばらく先になるでしょう。


住宅ローンに異変?


そのような中、住宅ローン比較サービス「モゲチェック」を運営するMFS(東京都千代田区)の塩沢崇取締役による試算では、一部のネット銀行において変動金利型の住宅ローン金利が実質マイナスになったとのこと。キャンペーンの先陣を切ったのは、23年3月に上場したばかりの住信SBIネット銀行、その次がauじぶん銀行です。


多くの人が住宅ローンを組む際に団体信用生命保険(団信)へ加入していると思われますが、

団信の保険料を考慮すると、住宅ローン自体の金利が実質的にマイナスになってしまうようです。「変動金利はいつ上がる?」と議論されていたところ、むしろ下がるというトンデモ事態です。


塩沢氏によると、先行した住信SBIネット銀行は借り換えのみが実質マイナス金利、追随したauじぶん銀行は新規借り入れ、借り換えともに実質マイナス金利となりました。出し抜かれたと危機感を抱いたauじぶん銀行が、さらに上を行くキャンペーンを出したとみられます。住宅ローン人気ランキング上位2行による、あまりにも激しい競争ですね。


 

出所:塩澤氏の公式YouTube動画を基に弊社作成



今後の住宅ローン動向は


今後、日本の金利は上がっていくだろうという見方が多いなか、変動のみとはいえ住宅ローン金利が下がることはほどんどの人が想定していなかったでしょう。業界においても衝撃が走ったと思います。熾烈な競争下、住信SBI銀行とauじぶん銀行による実質マイナス金利化を放置しておくわけにもいかないので、今後は各銀行も変動型の金利引き下げ、または付帯サービスの拡充などを実施するかもしれません。


<変動金利型住宅ローンの人気ランキング>

 

出所:価格.comローン 23年4月25日のデータを基に弊社作成 数値は下限値


なお、23年4月27日~28日かけて、植田新総裁にとって初の日銀金融政策決定会合が開催されます。こちらについては現行の金融緩和策を継続するとの見方が多い様子。他方で6月のYCC修正を想定し、日本生命保険が金利上昇を待って国債買いのペースを加速させる方針と報じられるなど、年内にYCC再修正が行われるとの観測は根強いです。


政策金利は契約の多数を占める変動金利型住宅ローンに大きな影響があるため、新総裁になったからといっても簡単には引き上げられないと考えられます。冒頭で述べたようにYCCの再修正が先と思われるので、今後の見通しは固定金利型住宅ローンは金利が緩やかに上昇、変動型はまだしばらくは横ばいといった動きになるでしょう。


将来的にマイナス金利が解除され、さらにプラス金利となった後から変動金利も上昇してくると思われますが、それが何カ月後、何年後に実現するかは物価動向や景気次第です。2行による変動金利の引き下げはこの4月に始まったばかりなので、他行がどのような戦略を打ち出してくるかに要注目ですね。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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