中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:HSBC(1) 1865年に香港で創業、アヘンで成長した黒歴史も

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)、美団(03690)の5銘柄を紹介してきました。今回は時価総額6位のHSBC(00005)を紹介します。


 


香港市場の時価総額6位は世界有数の金融グループHSBC


HSBC(00005)は英国のロンドンに本社を置く金融持ち株会社で、2021年末時点の銀行総資産で世界8位。個人・法人向け商業銀行業務、投資銀行業務、保険業務などをグローバルに展開しています。欧州、アジア、米州など60を超える国や地域で事業を手掛け、顧客数は4000万超。ロンドン、香港、ニューヨーク、パリ、バミューダの各証券取引所に上場しています。創業は1865年と非常に古く、日本では横浜に最初の支店が設立されたのが1866年。なんと江戸時代、幕末の時代です。日本に現存する最古の銀行と言われています。日露戦争の戦費調達を支援するなど、日本の歴史にも大きく関わってきました。では、その歴史をみてましょう。 



1865年に香港で開業した香港上海銀行が母体


HSBCは、スコットランド人のトーマス・サザーランド氏が中心となり、英国貿易商らが集まって香港で設立した「香港上海銀行」が母体となっています。開業は1865年3月3日です。トーマス・サザーランド氏はもともと、英国の船舶会社大手ペニンシュラ・アンド・オリエンタル汽船(P&O汽船)で働いていましたが、中国南部の沖合いを航海中に読んだスコットランドの銀行に関する記事をきっかけに銀行業に興味を持ちます。そして、香港と中国沿海地区との貿易に大きなビジネスチャンスがあることを確信し、貿易業務を支援する銀行の設立を決意します。それまで銀行口座を持ったこともなかったと言いますから、すごい決断力です。


当時の香港は、アヘン戦争(1840-42年)で敗れた中国(当時は清朝)から英国に割譲され、英国の植民地となっていました。香港ではアヘン貿易が堂々と行われていました。ビジネスチャンスを求めて多くの貿易商が香港に来ており、彼らが稼いだお金を本国に送金するという大きな需要があったのです。多くの貿易商が中国とのアヘン貿易で大きな利益を上げます。東インド会社を源流とする英国系資本のジャーディン・マセソンもそのうちの1社で、香港上海銀行の主要な株主でもありました。


写真は香港セントラルの香港上海銀行 出所:快資訊


1900年代初頭にかけて大きく成長、アジア最大の金融機関に


その後、1900年代初頭にかけてトーマス・ジャクソン氏によって大きな成長を遂げます。資金力を背景に政府への貸し付けにも積極的に乗り出していくようになり、清朝政府にも多額の資金を貸し付けます。事業エリアは16カ国・地域に拡し、この時点でアジア最大の金融機関に成長します。英国による香港の植民地支配を資金面から支える役割も果たし、清朝政府を食い物に成長します。アヘンや戦争を利用してきた銀行と言われることもあります。初期の頃には、どうしてもこういった「黒歴史」がついてまわります。


香港セントラルの本店前にある皇后像広場(Statue Square)には、いまでも彼の功績を称えて銅像が建てられています。ちなみに、トーマス・ジャクソン氏は1871-74年に横浜支店のマネジャーを務め、大阪支店の設立にも尽力した人物です。


写真は皇后像広場のトーマス・ジャクソン像


20世紀前半は戦争・恐慌による混乱が直撃


20世紀の前半は戦争や恐慌による混乱が直撃します。第一次大戦後はゴムやスズの貿易で伸びていたアジア事業の地盤を固めますが、世界大恐慌で事業環境は激変。事業拡大から事業存続に経営の主軸が移り、内部留保が取り崩されていきます。第二次大戦中は多くの英国人スタッフが戦争捕虜となり、収容所に入れられてしまいます。営業を継続できたのはロンドン、インド、米国支店だけとなり、1941年には一時的に本社をロンドンに移転します。この時代、香港は日本の統治下に置かれます。香港上海銀行の建物は日本軍に接収され、日本の占領地総督部が置かれました。


写真は日本の占領地総督部が置かれた3代目ビル 出所:etnet


戦後は買収戦略で事業を拡大、世界有数の金融機関に成長


第二次大戦後は本社を香港に戻します。香港の戦後復興と製造業の発展を追い風に再び成長軌道に乗ります。1959年の中東ブリティッシュ銀行(BBME)の買収を皮切りに、マーカンタイル銀行やハンセン銀行(恒生銀行:00011)などを相次いで買収。創立100周年にあたる1965年には、世界中の営業拠点が170にまで拡大します。


写真は買収したハンセン銀行(00011)


1991年には持ち株会社であるHSBCホールディングスを設立。香港上海銀行は持ち株会社の下に入ります。1992年には英国の銀行大手、ミッドランド銀行を買収。買収時の合意にもとづき、HSBCは本社を香港からロンドンに移します。2000年代に入ってからは中国事業を強化することで業績を拡大していきました。HSBCは香港を拠点にアジアで地盤を築き、困難な時期を乗り越えて世界有数の金融機関に成長してきたのです。


次回もHSBCの紹介の続きです。お楽しみに。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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