中国株の銘柄選び

二季報を使った銘柄選び(15) 「年間上昇率」と「年間下落率」のランキングで勢いのある銘柄やダメ銘柄を見つける

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。香港、上海、深センの取引所には合わせて8000近くの銘柄が上場しているので迷うのは当然です。そんな場合は、「中国株二季報」を活用して銘柄を探してみるのがいいでしょう。中国株二季報には、中国株を取引するに当たっての基本情報から、中国市場の概況、中国の業界動向、個別銘柄の情報などがぎっしりと詰まっています。このシリーズでは、中国株二季報を利用した中国株の銘柄選びについて紹介していきます。


▼参考

中国株二季報の最新号はこちら


中国株をこれから始めようとした場合、まずは銘柄選びの手掛かりが欲しいですよね。とはいえ、数多くの銘柄の中から自分で有望銘柄を見つけ出すのは大変です。そんなとき参考になるのが、巻末付録の「ランキング」です。今回は「年間上昇率」と「年間下落率」のランキング活用法を紹介します。


「年間上昇率」のランキングで勢いのある銘柄を探す


「年間上昇率」は、直近1年間で株価がどれだけ上昇したかを示した指標です。株価はさまざまな要因で日々刻々と変化しますが、このランキングは1年間の上昇率なので、長期的なトレンドを把握することができ、効果的に成長企業をみつけることができます。


ランキングの上位銘柄は、すでに1年間で株価が大きく上昇しているため、株価はこの後下がる可能性もあります。ホルダーの方であれば、利益を確定するために手放すことを考えてもいいかもしれません。しかし、業績好調な成長企業であれば、今後も株価の上昇が続く可能性があります。順張りスタンスの人は、このランキングから今後も上昇が続きそうな銘柄を探してみましょう。銘柄を探す際は、必ず個別銘柄のページで業績や指標をチェックするようにしてください。具体的に銘柄を見てみましょう。


 


「中国株二季報」2024年夏秋号の「年間上昇率」ランキングの1位は、教育関連サービスを展開する新東方教育科技(09901)で年間上昇率は109.2%に達しています。個別銘柄のページで業績を確認してみると、2022年5月期に11億8800万米ドルの大幅な赤字を計上した後、回復基調であることがみて取れます。2022年の赤字は中国政府が打ち出した学習塾規制の影響です。


しかし、その後に大学生・社会人向けの教育事業や習い事事業など非学習塾事業を強化して復活を果たすなど、事業環境の激変にもしぶとく対応しています。個別銘柄の決算寸評を読むと、このあたりのことに触れられています。株価を見ると、2021年2月の高値(158.8HKドル)から2022年3月には6.62HKドルと96%下落していますが、その後はじりじりと回復してきています。新東方教育科技はどん底からの復活銘柄といえます。


 

(出所:中国株二季報2024年夏秋号)


「年間下落率」のランキングはダメ銘柄を選ぶ指標か?


一方、「年間下落率」ランキングの方は、直近1年間で株価がどれだけ下落したかを示した指標です。なかには株価が9割も下げている銘柄もあります。株価が1年で9割も下落していれば危機的状況です。「年間下落率」ランキングは、リスクを避けたい投資家にとっては、ある意味投資してはいけない「ダメ銘柄」を見つける指標とも言えます。


 


「中国株二季報」で下落率の実際に上位銘柄を見てみましょう。下落率の上位には、不動産銘柄が並んでいます。中国の不動産銘柄は、不動産不況の影響で販売が落ち込み、厳しい経営を強いられています。特に下落率の上位にきている不動産開発の中国恒大集団(03333)や碧桂園(02007)は、いずれも2023年12月本決算を期日までに発表できませんでした。このコラム執筆時点で株式取引が停止中となっています。3位の恒大物業集団(06666)は、中国恒大集団傘下の不動産管理会社で株式取引は継続していますが、株価の方は厳しい状況となっています。


下落率上位銘柄の中には大化けする銘柄が隠れていることも


しかし、一方で大きく下落した銘柄はリバウンド力も大きいため、敢えてこういった銘柄を選ぶという逆張りの投資スタンスもあります。先に「年間上昇率」のランキングに登場した新東方教育科技は、かつて1年間で株価が9割超下落し、「中国株二季報」2022年夏秋号では下落率が1位でした。こういった前例もしっかり存在するので、「年間下落率」のランキングに載ったからといって、必ずしも「ダメ銘柄」の烙印を押す必要はありません。


このほかにも例を挙げると、2023年夏秋号で下落率9位だった小鵬汽車(09868)が次の2024年春号で上昇率8位に入ったり、同じく2023年夏秋号で下落率8位だったブリリアンス・チャイナ(01114)が、2024年夏秋号では上昇率6位に入ったりと、大化けするケースもあります。



「年間下落率」のランキングから、こうした銘柄を見つけることができれば、非常に大きなリターンを得ることができます。「ダメ銘柄」と決めつけずに、もしかしたら?という銘柄を見つけてみるのもいいでしょう。

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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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