中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:アリババ集団(3) アリババは102年続く企業になれるのか?

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。今回は時価総額2位・アリババ集団(09988)の紹介の最終回です。前回までの内容は下記をご覧ください。


▼参考

香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲

香港市場の主要銘柄:アリババ集団(2) イーベイとの争いを制して中国での覇権を握る


 


買収による囲い込みを加速、「アリババ経済圏」構築へ


アリババ集団(09988)は、ニューヨーク市場に上場する2014年ごろから積極的な買収を仕掛けます。14年に地図アプリを手掛ける高徳(オートナビ)を買収すると、ヘルステックの阿里健康(00241)、動画サイトの優酷(Yoku)、携帯ブラウザの優視、東南アジアのEC大手ラザダ、映画関連事業のアリババ・ピクチャーズ(01060)、百貨店の銀泰百貨、ネット出前の餓了麼(ウーラマ)、越境ECサイトの考拉(コアラ)――などを相次いで傘下に収め、「アリババ経済圏」に組み込みます。


この時期はライバルであるテンセント(00700)と経済圏争いが激化した時期でもありました。ネット企業の多くがどちらかの陣営に組み込まれ、「アリババ系」「テンセント系」と区別され、あらゆる分野で両陣営のサービスが対立するようになります。


下の図はアリババ経済圏の主要プレーヤーです。アリババ集団はテンセントに比べると経済圏のパートナー企業に対する出資比率が高く、事業統合を通じて事業を拡大する傾向が強いと言われています。


アリババ経済圏の主要プレーヤー

 

出所:アリババ・ジャパンのホームページ


アリババが提唱する新たな小売りの形、ニューリテールとは?


創業者のジャック・マー氏は2016年、今後の新たな小売りの形として「ニューリテール(新型小売り)」という概念を提唱します。これは、データやテクノロジーをフル活用し、オンラインのECサイトとオフラインの実店舗を融合させ、利用者にシームレスな買い物体験をしてもらおうという考え方です。この戦略を最も実践しているとされるのが、2016年に上海に1号店を開いた生鮮食品スーパーの「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」です。



盒馬鮮生は、実店舗がオンラインの倉庫を兼ねており、オンラインで注文すると店舗から3キロ以内であれば最短30分で自宅に無料で商品を届けてくれます。実店舗で扱う商品は、アリババ集団が持つ膨大なデータを活用して最適なものが選び出されます。


また、店内にはさまざまな楽しい仕掛けが用意されており、海鮮コーナーでは生け簀の魚介類を網ですくい、その場で調理して食べることもできます。配達用の商品がピックアップされ、天井に設置されたレールをひっきりなしに流れていくのを見るのも楽しいものです。「盒馬鮮生」から3キロ以内の不動産物件は周辺よりも値上がりするという都市伝説も生まれました。

 

動画は「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」の天井に設置されたレール


マー氏引退後に訪れたアリババの転機、史上最大のIPOのはずが史上最大の罰金に


順調に思われたアリババ集団ですが、2019年9月に創業者のマー氏が55歳の誕生日を迎えたのを機に引退。アリババ集団の経営は後任の張勇(ダニエル・チャン)氏に託されます。マー氏の引退は1年前から予告されていたので、しっかりと引き継ぎはできていたようです。


しかし、翌年の2020年に事件が起こります。この年の11月5日に予定されていた傘下の金融サービス会社、アント・グループの史上最大規模の新規株式公開(IPO)が、中国政府の横やりで突然中止となります。上場を2日後に控えたタイミングです。すでに引退していたマー氏が「良いイノベーションは(当局の)監督を恐れない」などと、政府批判と受け取れるような発言をしたことが理由とされています。


アント・グループは史上最大のIPOを果たすはずだったが・・・


この後、アリババ集団に対する当局の締め付けが急に厳しくなり、2021年4月には独占禁止法違反で182億元(約3600億円)にも上る史上最大の罰金を科せられます。史上最大のIPOのはずが、史上最大の罰金というキツい処分です。独禁法の審査が厳しくなり、過去の買収案件が一つ一つチェックされます。そして、新たな企業買収も思うように進まなくなり、事業が停滞し始めます。


中国でビジネスをするには中国政府の意向に逆らわず、うまく立ち回っていく賢さが求められることを象徴するような事件でした。アリババ集団はいま、次に向けた戦略の立て直し時期にきています。


アリババ集団は102年続く企業になれるのか?


アリババ集団は「102年続く企業」になることを目標に掲げています。102年というのは中途半端な数字ですが、1999年6月に創業したアリババ集団にとって102年続けば3つの世紀にわたって続く企業になるということなのだそうです。


ところで、社名の由来となった千夜一夜物語の「アリババと40人の盗賊」ですが、最後はどうなったか覚えていますか?盗賊たちが洞窟にため込んでいた莫大な財宝を手にした主人公のアリババは、それを町の人々に分け与え、幸せに末永く暮らしたという話です。中国の「アリババ」は今後、どんな道のりを歩んでいくのでしょうか。アリババ集団を応援して投資した人たちにも幸せが届く、ハッピーエンドを期待したいところです。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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