中国株の銘柄選び

二季報を使った銘柄選び(19) 「粗利益率」ランキングで高い競争力を持った高収益企業を探す

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。香港、上海、深センの取引所には合わせて8000近くの銘柄が上場しているので迷うのは当然です。そんな場合は、「中国株二季報」を活用して銘柄を探してみるのがいいでしょう。中国株二季報には、中国株を取引するに当たっての基本情報から、中国市場の概況、中国の業界動向、個別銘柄の情報などがぎっしりと詰まっています。このシリーズでは、中国株二季報を利用した中国株の銘柄選びについて紹介していきます。


▼参考

中国株二季報の最新号はこちら


中国株をこれから始めようとした場合、まずは銘柄選びの手掛かりが欲しいですよね。とはいえ、数多くの銘柄の中から自分で有望銘柄を見つけ出すのは大変です。そんなとき参考になるのが、巻末付録の「ランキング」です。今回は「粗利益率」のランキング活用法を紹介します。


「粗利益率」は収益性や採算性を測る指標


「粗利益率」は、売上高に占める粗利益の割合を示したもので、粗利益÷売上高×100で算出することができます。粗利益は売上総利益とも呼ばれ、損益計算書(PL)の売上高から、商品の仕入れや製造にかかった費用に当たる原価を差し引いたものです。企業が本業でどれだけ利益を上げているかを示しています。「粗利益率」は企業の収益性や採算性を測る指標であり、投資における重要な指標として活用されています。


 


単純な例として小売業を考えてみます。ある商品を100円で売ったとして、その商品の仕入値が60円だったとすれば、40円が小売店の儲けになります。これが粗利益に当たります。粗利益率は粗利益÷売上高×100で算出するので、このケースで粗利益率は40円÷100円×100=40%となります。


実際の企業を考えると、このほかにも店舗の家賃や光熱費、広告・宣伝費、従業員の人件費などさまざまなコストが必要になります。場合によっては、本業とは関係のないところで一時的な損失が発生して、最終損益が赤字になってしまうこともあり得ます。純利益だけに注目していると、一時的な要因に左右されてしまうこともあるのです。しかし、「粗利益率」は売上高から原価だけを差し引いた粗利益の割合を示す指標なので、企業が本業だけでどれだけ儲けているのかを簡単に把握することができるのです。

 


「粗利益率」が高い企業というのは、製品やサービスを高い価格で販売し、多くの利益を稼ぎ出している企業であると推察することができます。競合他社よりも「粗利益率」が高ければ、製品やサービスの価格が高くても消費者がその価格を受け入れているということであり、高付加価値の製品やサービスを持っている企業といえます。「粗利益率」が高い企業は、ブランド力があって差別化された製品やサービスを持つなど、高い競争力を持った企業であることを意味します。こうした企業は市場でも高く評価されるため、株価にとってもプラスの要因となります。


「粗利益率」の水準は業界によっても異なる


なお、「粗利益率」の水準は業界によって異なります。一般に製薬業界やIT業界、ラグジュアリーブランドなどの業界では「粗利益率」が高く、逆に小売業界や卸売業界など商品を仕入れて販売するような業界で低い傾向があります。また、競争の激しい業界では各社が製品やサービスの価格を下げることでシェアを伸ばそうとするため、「粗利益率」は低下する傾向があります。中国ではよく自動車業界の値下げ合戦が報じられますが、各社が値下げをすれば業界全体として「粗利益率」は低下していきます。


個別企業の「粗利益率」を調べる際は、(1)業界平均に比べてどうか?(2)前年と比較してどうか?――という点も重要な要素になります。業界平均に比べて高ければ、それだけ競争力の高い企業であり、前年に比べて高くなっていれば収益力が高まっていることを意味するからです。「中国株二季報」で銘柄を探すにあたっては、できるだけこうした競争力のある銘柄を選びたいところです。 



ランキング1位の銘柄の「粗利益率」はなんと9割超え


「中国株二季報」の2024年夏秋号で具体的にランキングを見てみます。

 


1位は上海A株市場に上場する白酒(パイチュウ)の王者・貴州茅台酒(600519)で、「粗利益率」はなんと92.12%に上ります。驚異的な収益力です。このほかの上位銘柄では、翰森製薬(03692)、三生製薬(01530)、江蘇恒瑞医薬(600276)、中国生物製薬(01177)といった医薬・バイオ銘柄、キングソフト(03888)、トリップ・ドットコム(09961)といったIT・ソフトウエア銘柄が入ってきています。9位のプラダ(01913)は典型的なラグジュアリー銘柄といえます。


 


なお、「中国株二季報」で全体の平均を確認すると、2024年夏秋号では採用銘柄の平均の平均は30.5%、香港上場銘柄全体の平均で28.9%となっています。業種ごとの平均は「中国株二季報」の企業データの最初のページに「業種別指標一覧」を掲載していますので、こちらもあわせて確認してみてください。


 


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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