中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:中電控股(2) カドゥーリー家の夢と挫折、第二次大戦中は日本軍が接収

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄などが、たくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回は中電控股(CLPホールディングス:00002)の続きです。


▼参考 中国株の銘柄選び

中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


「九龍の街を電気で明るく照らしたい」


中電控股の支配権を握った実業家のエリー・カドゥーリ氏は、もともと九龍側での電力事業に並々ならぬ強い思い入れがありました。九龍半島の対岸である香港島では、このころすでに香港で最初の電力会社である香港電灯(現港灯電力投資SS:02638)が電力供給を開始し、セントラル地区は夜でも電灯で明るく照らされていました。エリー氏は九龍半島の街並みも香港島のように電気で明るく照らしたいと願い、それをいずれ自分の手で成し遂げたいと考えていたのでした。中電控股への出資にはこうした背景があったのです。


赤字だった広州の発電所を売却してからは、九龍の電力事業の発展に注力します。こうしたなか、1910年に大きな転機が訪れます。香港の九龍と中国(清王朝)の広州を結ぶ九広鉄路(九広鉄道=KCR)の香港側の「英段」が1910年に開通したのです。翌年の1911年には中国側の「華段」も開通。それらの鉄道駅に電力を供給する契約が決まったのです。この契約が足がかりとなり、九龍での電力事業が軌道に乗ります。「英段」は現在のMTR東鉄線、「華段」は現在の広深鉄路です。


1918年に発電所のあった漆咸道(チャッタムロード)の土地が収用され、新たに埋め立てで造成された鶴園街の土地に発電所を移転することになります。1919年には九龍地区の街灯への電力供給の権利を獲得し、1921年には新設された鶴園発電所の運転が始まります。1937年ごろには九龍地区の街灯は3万6000台に達したといいます。ついに九龍の街を電気で明るく照らすという、エリー氏の夢がかないます。

 

九龍の鶴園発電所 出所:CLP 120Years of Shared Vision


迫る日本軍を前に設備を自ら破壊


そして、この地区にあった造船大手の「黄埔船塢」やセメント大手の「青洲英泥」などへの電力供給契約が次々と決まり、事業は拡大期を迎えます。しかし、第二次大戦が始まり、日英の対立が激しくなると状況は一変。発電設備が日本軍の手に渡るのを防ぐため、1941年に香港政府の命令で発電所の主要設備を破壊することになります。自らの手で設備を破壊するのは、本当につらい行為だったと思います。


日本軍が香港を占領した後、中電控股の発電所は日本軍が接収。海に捨てられた設備を引き揚げたり、破壊された設備を修理するなどして、日本軍が発電所として利用することになります。カドゥーリー家が経営する香港のペニンシュラホテルも接収され、香港軍政庁が置かれました。そして、エリー氏と一族は日本軍に捉えられ、上海の収容所に移送させられます。中電控股にとっては暗黒の時代です。エリー氏は重い病気のため収容所からは解放されますが、そのまま上海の地で亡くなります。1944年のことでした。一族の事業は、長男のローレンス・カドゥーリー氏が引き継ぎます。


停電したペニンシュラホテルでの降伏協議 出所:新浪網 二戦中日軍占領香港老照片


2代目のローレンス氏が香港に帰還、鶴園発電所を再建


1945年に第二次世界大戦が終結すると、ローレンス氏は早速復興に乗り出します。ローレンス氏は軍に頼み込んで貨物扱いで輸送機に乗せてもらい、再建資金を携えていち早く上海から香港に帰還。戦争により荒廃した鶴園発電所はひどい状態でしたが、香港経済再建のため発電設備を修理し、九龍地区での電力供給をなんとか再開させます。香港での再建が進む一方、中国では1949年に中華人民共和国が建国。カドゥーリー家が上海に持っていた資産は没収され、すべてを失います。この時代、カドゥーリー家は歴史に翻弄され、多くの浮き沈みを経験したのでした。


写真は戦後1947年の鶴園発電所 出所:躍変龍城鶴園街


ちなみに、上海の静安寺付近にあるカドゥーリー家の旧私邸は「マーブルハウス(大理石宮)」と呼ばれ、いまでは中国福利会少年宮として、子どもたちの課外活動などに利用されています。建物は1931年に完成し、延べ床面積は4700平方メートル。この宮殿のように豪華な建築物を見れば、カドゥーリー家が当時、どれだけの資産を持っていたか想像することができそうです。


写真は上海の旧カドゥーリー邸 出所:静安寺図書館


次回も中電控股の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


【香港の電力持ち株会社】香港のほか、中国やインド、東南アジア、台湾、豪州でエネルギー事業を展開する。傘下の中華電力(CLPパワー)は九龍や新界、離島で275万世帯に電力を供給し、域内人口の8割をカバー。中国では16省・自治区・直轄市で50超の電力プロジェクトを展開する。豪子会社エナジー・オーストラリアは発電と電力・ガス販売に従事。発電容量は持ち分換算で2万3068MW(22年末)。地域別売上比率は香港51%、豪州42%、インド5%など(22年12月期)。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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