中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(4) 23年に創立90周年、デジタル分野でも挑戦を続ける

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回はハンセン銀行(恒生銀行:00011)の最終回です。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


1972年に香港証券取引所に上場


HSBC(00005)の下で再出発したハンセン銀行は、その後、1972年に香港証券取引所への上場を果たします。香港市場での銀行銘柄の上場は戦後初めてのことでした。すでに「ハンセン指数」として「恒生(ハンセン)」の2文字は広く知られていたため、ハンセン銀行の新規株式公開(IPO)は人気を集めます。公募倍率は30倍近くに上り、資金凍結額は当時の香港の財政収入のおよそ半分にあたる28億HKドルに達します。上場によって時価総額は16億HKドルを超えます。


このころには支店数が20店舗に拡大し、従業員数は2000人を超えるまでに成長。香港では親会社であるHSBCに次ぐ規模となります。1981年には地下鉄の駅構内での支店開設の独占権を獲得。地下鉄駅に次々と支店を開設し、ATMを設置していきます。まだ携帯電話のない時代です。香港市民の待ち合わせ場所と言えば地下鉄駅で、多くの人が「旺地恒(地下鉄旺角駅のハンセン銀行)」、「尖地恒(地下鉄尖沙咀駅のハンセン銀行)」などと言って待ち合わせをしたといいます。地下鉄駅のハンセン銀行前は、いつも待ち合わせする人々で賑わっていたそうです。携帯電話の普及とともにこうした現象はなくなっていきますが、時代を感じさせるエピソードです。


出所:品牌博物館恒生館


中国進出を加速、2007年には現地法人を設立


1980年代に入ると中国市場の開拓に着手します。1985年に深センに代表事務所を設置したのに続き、1995年に初めての支店を広州に開設します。中国事業は、恒生銀號の時代に広州や上海などで手掛けていましたが、1949年の中国建国以降は事業がストップしていました。香港が中国に返還された1997年には、上海での支店設立の認可を取得。2005年には北京代表事務所を支店に昇格させます。2007年には中国現地法人の設立を許可され、寧波や杭州、昆明、天津などに支店を設立。中国事業を加速させていきました。


ハンセン銀行は2023年に創業90周年を迎え、3月には創業を祝う大規模なイベントも開催されました。創業時は小さな両替商でしたが、2022年末には香港の店舗数が260を超え、中国では主要20都市に進出。マカオやシンガポールにも営業拠点を築くなど、中華圏を中心に事業を展開し、香港の4大商業銀行の一角を占めるまでに成長したのです。


デジタル分野でも新たな取り組み


最近ではデジタル分野でも挑戦を続けています。香港の銀行業界では初めてデジタルインフルエンサーとして「Hazel」というキャラクターを採用。25歳の活発な女性をイメージし、イラストレーターやモデルなど複数の職業や肩書を持つ「斜槓族(スラッシュ族)」という設定のキャラクターなのだそうです。音楽や芸術、スポーツを好み、特にヨガに夢中とのこと。かなり多趣味なようです。


デジタルインフルエンサーの「Hazel」 出所:恒生銀行HP



また、業界に先駆けて非代替性トークン(NFT)のウォレットを導入し、アーティストと協力してNFTアートを発行するなど、これまでの銀行の枠にとらわれない先進的な取り組みも行っています。


業界に先駆けてNFTを導入 出所:恒生銀行HP



香港恒生大学の設立にも関与


出所:香港恒生大学HP


香港の私立大学である「香港恒生大学(恒大)」も実はハンセン銀行が設立に携わった大学です。1980年に創立された際は、「恒生商学書院(恒商)」と呼ばれていました。


設立にあたっては、長年ハンセン銀行のトップを務めた何善衡氏が設立した慈善団体「何善衡慈善基金会」が中心となり、ハンセン銀行の創業メンバーやハンセン銀行が設立した貿易会社「大昌貿易行」などが資金を出し合いました。香港の銀行界やビジネス界で活躍する人材を育成する教育機関という位置づけで始まり、2018年には大学に昇格。現在、大学では6000人近くが学び、毎年多くの人材をビジネス界に輩出しています。


ロゴに春秋戦国時代の通貨を採用



左がハンセン銀行のロゴ、右が「方足布」 出所:香港経済日報


さて、ハンセン銀行のロゴと香港恒生大学のロゴを見比べてみると、中央に共通のデザインが描かれていることに気づきます。中央に描かれているのは、実は中国の春秋戦国時代(紀元前5世紀-紀元前221年)に使われていた貨幣で、「方足布(ほうそくふ)」と呼ばれるものです。布と言っても、実際に布で作られていたわけではなく、青銅で作られていました。


現在も台湾の中央銀行にあたる中華民国中央銀行や台湾最大の商業銀行である台湾銀行などが「方足布」をロゴに採用しています。中国の古くからの伝統を受け継ぐ姿勢を示しているのかもしれません。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


【HSBCグループ傘下の香港地場系大手行】1965年からHSBC(00005)傘下。約260カ所の営業拠点を持つ香港が主要事業基盤。2003年に興業銀行(601166)への資本参加で本土市場に参入したが、15年5月までに持ち株をほぼ売却。07年には本土現地法人の恒生銀行(中国)を設立した。本土では北京、広州、深セン、上海、南京などに営業拠点を展開。域外ではシンガポールとマカオに支店、台北に代表事務所を置く。ハンセン指数を運営するハンセン・インデックシズは完全子会社。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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