中国株の銘柄選び

二季報を使った銘柄選び(18) 「現金同等物」ランキングは安定性を重視した投資家向けの指標、上位には高配当利回り銘柄も

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。香港、上海、深センの取引所には合わせて8000近くの銘柄が上場しているので迷うのは当然です。そんな場合は、「中国株二季報」を活用して銘柄を探してみるのがいいでしょう。中国株二季報には、中国株を取引するに当たっての基本情報から、中国市場の概況、中国の業界動向、個別銘柄の情報などがぎっしりと詰まっています。このシリーズでは、中国株二季報を利用した中国株の銘柄選びについて紹介していきます。


▼参考

中国株二季報の最新号はこちら


中国株をこれから始めようとした場合、まずは銘柄選びの手掛かりが欲しいですよね。とはいえ、数多くの銘柄の中から自分で有望銘柄を見つけ出すのは大変です。そんなとき参考になるのが、巻末付録の「ランキング」です。今回は「現金同等物」のランキング活用法を紹介します。


「現金同等物」ランキングはお金持ち企業のランキング


「現金同等物」のランキングは、キャッシュフロー計算書(CF)の一項目である現金及び現金同等物の期末残残高のランキングです。現金及び現金同等物とは、期末時点で手元にある現金もしくはすぐに換金可能な3カ月以内の短期投資を指します。具体的には、現金や自由に引き出せる普通預金、3カ月以内の定期預金、譲渡性預金、コマーシャルペーパーなどです。現金そのものでなくても、すぐに現金化することができるお金(=現金と同等の価値を持つ資産)を含め、「すぐに支払いに当てられる金融資産をどれだけ持っているか?」という指標です。要するに「キャッシュリッチ企業(お金持ち企業)」のランキングといえます。


出所:中国株二季報2024年夏秋号


「現金同等物」が多ければ、急な支払いが発生したとしても、新たな借り入れをせずに手元の現金だけで対応することができます。「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?仮に黒字を出している企業であっても、支払いに際してすぐに引き出せる現金を持っていなければ、倒産してしまうことがあります。「現金同等物」を確保しておくことは、企業が存続していく上で非常に重要なことなのです。「現金同等物」が多ければ、それだけ企業財務が健全であり、安全性が高い銘柄ということができます。


また、「現金同等物」が多い企業は、財務が安定していることから信用格付けが高いことが多く、仮に急な資金需要が発生したとしても、銀行から低金利で資金を借り入れることができます。これによって財務コストを低く抑えることが可能になります。「現金同等物」を確保しておくことには、こうしたメリットがあるのです。


「現金同等物」の多いことのメリットはほかにも


現金同等物が多い銘柄には、ほかにもメリットがあります。例えば、「現金同等物」をたくさん持っていれば、新たな資金需要が発生したとしてもすぐに対応することができ、スピーディーな意思決定が可能になります。逆に「現金同等物」が少ないと、新たに資金を調達してこなければなりません。資金を調達するには時間がかかりますし、コストもかかります。仮に新株を発行して株主から資金を集めることになれば、発行済み株式が増えて一株利益が希薄化されるため、場合によっては株価の下落を招くこともあります。


株主還元という面からもメリットがあります。「現金同等物」をたくさん持っていれば、配当原資がたくさんあることを意味しますので、株主に多くの配当を出すことができます。当面新たな資金需要がなければ、増配の可能性が高い銘柄ともいえます。


また、「現金同等物」は自社株買いの原資にもなります。株価が低迷している銘柄であれば、自社株買いを実施することで市場に出回る株式数を減らし、一株当たりの利益を高めることができます。一株当たりの利益が高まれば、それに伴って株価の上昇も期待できます。


「現金同等物」は多ければ多いほどいいのか?


ここまで「現金同等物」を確保しておくことのメリットを説明しました。「現金同等物」を持つことは良いことばかりに思われたかもしれません。しかし、「現金同等物」があまりに多すぎる場合にはマイナスになることもあります。


例えば、「現金同等物」が多いということは、それだけ企業財務の安全性は高まりますが、逆に多くの資金が効率的に活用されていないことを意味します。資金が無駄に眠っている状態です。そうなると、資金を活用していれば得られたかもしれない利益を失うことになります。これを「機会損失」といいます。「機会損失」が発生している銘柄は、業績の急成長が見込みにくく、投資家からの評価も低くなりがちです。このように「現金同等物」をたくさん持つことのメリットとデメリットは表裏一体の関係にあります。


投資するにあたっては、自分がどのような目的で投資するのか、改めて考えてみる必要があります。企業財務の健全性や安定した配当などが目当てであれば「現金同等物」のランキングは参考になりますが、企業の成長性や将来性を重視するのであれば別の指標を参考にする必要があります。


 


なお、上記は「中国株二季報」2024年夏秋号に掲載された「現金同等物」ランキングの抜粋です(本誌では上位20銘柄まで掲載しています)。上位銘柄は、ほぼ金融・証券・保険で占められていることが分かります。これらの銘柄は、安全性を確保するため、規制当局から一定の流動性を維持することが求められていることが理由です。


ランキング上位は経営が安定している銘柄が多く、同時に高配当利回りランキングの上位に入ってくる銘柄も珍しくありません。安定性と配当利回りを重視する投資家に適した指標といえるかもしれません。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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