中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。
▼参考
中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
農夫山泉は広告会社?特徴的なネーミングと芸術的なデザイン
農夫山泉の商品は、ネーミングに特徴的なものが多く、その多くは鍾会長が自ら考えているようです。とりわけ「茶π(パイ)」は消費者の目にとまりやすいネーミングです。発売初期のころは、韓国の人気アイドルグループ「BIGBANG(ビッグバン)」を広告モデルに採用。「茶π自成一派(円周率のように無限に続く可能性で、自ら道を切り拓いていこう)」という韻を踏んだ覚えやすいキャッチコピーで(「π」と「派」の中国語の発音が同じ)、そのデザイン性とともに若者を中心に人気を集めました。「東方樹葉」も中国風のパッケージがとても印象に残ります。棚に並んでいたら、無意識に手に取ってしまいそうです。
農夫山泉の茶飲料、右側が「東方樹葉」 出所:農夫山泉の決算報告書
農夫山泉はよく飲料水メーカーというよりも、「広告会社」に近いと言われることがあります。飲料水という差別化しにくい商品の中ではイメージが非常に重要であることを、鍾会長が誰よりも認識しているからだといいます。
農夫山泉のデザインは芸術的なものが多い 出所:農夫山泉の決算報告書
農夫山泉が制作した広告は非常に芸術性が高く、とりわけ「水源」シリーズの広告は中国で最も美しい広告と言われています。特に東北虎が水をペロペロとなめて飲むシーンは、汚染されていない天然の水、きれいで美味しい水を連想させます。
印象に残る「水源」シリーズの広告 出所:Ads CHINA
後継者の最有力候補は謎多き大富豪の息子
民営企業である農夫山泉にとって、創業者である鍾会長は絶対的な存在です。しかし、年齢が70歳に近づき、後継者問題が懸念材料の一つとなってきています。
実は鍾会長には35歳の息子がいて、息子は2014年に農夫山泉に入社。2017年から農夫山泉の非執行取締役を務めています。米国籍を取得しているためか、名前はZHONG Shu Ziと漢字の発音をアルファベットで表記した「ピンイン」で記載されており(中国語は鍾墅子)、息子もほとんどメディアへの露出はありません。これまで中国では、多くの大富豪が当局の捜査の対象となったり、どん底に突き落とされてきた経験からか、「目立たないこと」がある種の家訓になっているかもしれません。
鍾会長の息子の鍾墅子氏 出所:娯楽星聞精選
鍾墅子氏は、ほかの中国の大富豪の子息と同様に国内ではなく、海外の大学を出ています。8歳で米国に渡り、カリフォルニア大学アーバイン校を卒業。中国に戻り、2021年には浙江大学で国際ビジネスの修士号を取得しています。中国メディアの情報によると、昨年亡くなった京セラの創業者、稲盛和夫氏を尊敬しているようで、彼の経営哲学を実践に取り入れているそうです。
文学的な才能があるようで、18歳のときには英語で書かれた詩集を出版。出版に際しては、本人ではなく別の人が中国語に翻訳しており、実は中国語が苦手なのか?そもそも、たまたま名前が同じ別人の作品ではないか?との臆測もささやかれ、真偽のほどは不明です。それほど彼に関する情報が少ないのです。ただ、名前や生年月日、出生地などが一致することから、おそらく本人だろうと言われています。どんな作品か読んでみたい気もします。
鍾墅子氏の作品とされる詩集 出所:娯楽星聞精選
経営者としての能力は未知数ですが、中国メディアの報道によると、鍾墅子氏は2023年11月に農夫山泉の本社のある杭州地区の責任者に就任したと伝わっています。鍾会長は「ライバルは国内の飲料水メーカーではなく、あくまでグローバルな飲料水メーカーだ」と語ってきましたが、これまで農夫山泉の海外事業はほぼ手つかずの状態。鍾墅子氏が後継者となった場合は、これまで未着手だった海外事業でも新たな動きが出てくるかもしれません。
ただ、大富豪の莫大な資産を相続する者が米国籍というのは問題ではないか?と指摘する人もいます。鍾会長が後継者問題をどのように解決していくのか、今後の動きに注目が集まりそうです。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、2020年に香港証券取引所のメインボードに上場したボトル入り飲料水最大手の農夫山泉(09633)です。
【ボトル入り飲料水の中国最大手】「農夫山泉」ブランドでボトル入りのナチュラルミネラルウオーターの製造・販売を手掛ける。中国市場で長年にわたってシェアトップを維持。新疆ウイグル自治区や黒龍江省、浙江省、河北省、湖北省、四川省など全国12カ所に湧き水や深層水の水源を持ち、水源の近くに工場を保有する。茶飲料「東方樹葉」、機能性飲料「維他命水」、果汁飲料「農夫果園」なども生産。これら3種でもシェア上位。