中国株の銘柄選び

二季報を使った銘柄選び(22) スクリーニングを使って銘柄を探す、「安定性」の活用法を紹介

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。香港、上海、深センの取引所には合わせて8000近くの銘柄が上場しているので迷うのは当然です。そんな場合は、「中国株二季報」を活用して銘柄を探してみるのがいいでしょう。中国株二季報には、中国株を取引するに当たっての基本情報から、中国市場の概況、中国の業界動向、個別銘柄の情報などがぎっしりと詰まっています。このシリーズでは、中国株二季報を利用した中国株の銘柄選びについて紹介していきます。


▼参考

中国株二季報の最新号はこちら


中国株をこれから始めようとした場合、まずは銘柄選びの手掛かりが欲しいですよね。とはいえ、数多くの銘柄の中から自分で有望銘柄を見つけ出すのは大変です。そんなとき参考になるのが、巻末付録の「スクリーニング」です。今回はスクリーニングの中の「安定性」の活用法を紹介します。


3つの条件で「安定性」のある銘柄を抽出、銘柄選びが簡単に


株式投資で銘柄を探す際、お世話になるのが「スクリーニング」です。「スクリーニング(Screening)」とは「ふるい分け」を意味し、設定した条件に合致した銘柄を探し出すことです。例えば、業績のいい銘柄を探したい場合は、「純利益が○○元以上の銘柄」や「増益率○○%以上の銘柄」など、株価のパフォーマンスのよい銘柄を探したい場合は、「株価の上昇率が○○%以上の銘柄」といったように条件を設定し、その条件を満たした銘柄だけを抽出します。これによって、目的の銘柄を簡単に探すことができます。


「中国株二季報」には、全部で数百に上る銘柄が掲載されていますが、一つ一つの銘柄をじっくり見ていても、なかなか目的の銘柄は見つかりません。そのため、「中国株二季報」では、「割安株」「成長性」「安定性」といった投資目的に合わせて代表的な指標を設定し、スクリーニングした結果を掲載しています。


 


「安定性」については、「株主資本比率」「負債比率」「流動比率」という3つの指標をスクリーニングに使っています。株主資本比率は、株主資本を総資産で割って算出したもので、総資産に対して株主資本(=株主から預かった資金)がどの程度の割合を占めているかを示した指標です。負債比率は、総負債を株主資本で割って算出され、株主から預かった返済の必要のない資金である株主資本に対して、銀行借り入れなど返済の必要がある負債の割合を示した指標です。一方、流動比率は流動資産を流動負債で割って算出され、企業の短期的な負債に対する支払い能力を示す指標です。


 


スクリーニングの条件に使った3つの条件は、それぞれ違った側面から財務の安定性を測っています。株主資本比率は返済の必要のない資金をどれだけ持っているか、負債比率は外部からの借り入れにどれだけ依存しているか、流動比率は短期的な支払い能力がどれだけあるかを示しています。「中国株二季報」のスクリーニングでは、この3つの指標を使って総合的に銘柄をふるいにかけています。


安定性の高い銘柄は長期保有に最適


成長性の高い銘柄に比べると、株価の上昇期待は小さいかもしれません。しかし、安定性の高い銘柄は、財務が健全で倒産リスクが小さい銘柄であり、短期的な価格変動のリスクも少ないため、長期保有に適した銘柄といえます。短期的な株価の値上がりよりも、長期的な株価の値上がりや安定した配当を得たい人に向いている銘柄です。忙しくて頻繁に株価を確認できない人、日々の株価の値動きに一喜一憂せず、老後資金のために投資を考えている人は、安定性の高い銘柄の中から銘柄を探していくといいでしょう。


実際に「安定性」のスクリーニング結果を、「中国株二季報」2024年夏秋号で見てみます。下の表は「株主資本比率」「負債比率」「流動比率」という3つのスクリーニング条件のうち、「株主資本比率」の高い順で並び替えしてあります。条件の数値は毎回微妙に異なりますが、2024年夏秋号では株主資本比率「65%以上」、負債比率「50%以下」、流動比率「200%以上」でスクリーニングし、45銘柄が掲載されるように調整しています。


 


いずれも株主資本比率が8割超に達しており、銀行などからの借り入れに頼らず、株主から預かった資金で経営ができている銘柄ばかりです。業種としては、ディフェンシブ銘柄の代表格とも言える医薬・バイオ業界の銘柄が目立ちます。


ただ、いくら安定性のある銘柄と言っても、実際に投資するにあたっては、損益計算書(PL)での業績確認は欠かせません。業績が悪化傾向にある銘柄であれば、いくら現時点で安定性が高かったとしても財務状況は徐々に悪化していきますので、長期投資したとしても大きなリターンは期待できません。できるだけ、安定した収益を上げている銘柄を選ぶのがいいでしょう。



長期投資を考えるのであれば、さらに配当利回りを合わせてチェックしてみると効果が高まります。「中国株二季報」では、ファクトセット社のコンセンサス予想にもとづいて、個別銘柄のページで予想配当利回りを掲載しています(アナリストがカバーしていない銘柄の場合は予想がないこともあります)。安定した財務と高配当利回りの組み合わせは、倒産のリスクが小さい上に安定した配当収入が入ってくるのですから相性は抜群です。スクリーニングを活用して、ぜひこうした銘柄を探してみてください。




この連載の一覧
二季報を使った銘柄選び(24) 銘柄選びに困ったときは個別銘柄ではなくETFという選択肢も
二季報を使った銘柄選び(23) スクリーニングを使って銘柄を探す、「総合評価」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(22) スクリーニングを使って銘柄を探す、「安定性」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(21) スクリーニングを使って銘柄を探す、「成長性」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(20) スクリーニングを使って銘柄を探す、「割安株」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(19) 「粗利益率」ランキングで高い競争力を持った高収益企業を探す
二季報を使った銘柄選び(18) 「現金同等物」ランキングは安定性を重視した投資家向けの指標、上位には高配当利回り銘柄も
二季報を使った銘柄選び(17) 「低額銘柄」ランキングの「お手頃」銘柄で中国株投資をスタート
二季報を使った銘柄選び(16) 「高額銘柄」ランキングで人気銘柄を発掘、取引単位引き下げや株式分割を実施する銘柄も
二季報を使った銘柄選び(15) 「年間上昇率」と「年間下落率」のランキングで勢いのある銘柄やダメ銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(14) 「株主資本比率」のランキングで安全性をチェック
二季報を使った銘柄選び(13) 「流動比率」と「低負債比率」のランキングは単独で使ってはいけない
二季報を使った銘柄選び(12) 「増益率」ランキングを活用して成長性の高い銘柄を探す
二季報を使った銘柄選び(11) ランキングを使って銘柄を探す、「業績増額修正」と「業績減額修正」で予想の変化をつかむ
二季報を使った銘柄選び(10) ランキングを使って銘柄を探す、「高配当利回り」はお宝銘柄の宝庫?10%を超える高配当銘柄がザクザク
二季報を使った銘柄選び(9) ランキングを使って銘柄を探す、「低PBR」だけで割安株を探してはいけない
二季報を使った銘柄選び(8) ランキングを使って銘柄を探す、「低PER」は投資指標の基本中の基本
二季報を使った銘柄選び(7) ランキングを使って銘柄を探す、経営効率の高い銘柄を探すなら「高ROE」
二季報を使った銘柄選び(6) ランキングを使って銘柄を探す、「時価総額」で企業規模の大きな会社を見つける
二季報を使った銘柄選び(5) 「業界マップ」を使って銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(4) 証券会社の「注目銘柄ランキング」を参考にする
二季報を使った銘柄選び(3) 「業界天気予報」を使って業種を手掛かりに絞り込む
二季報を使った銘柄選び(2) 「中国株二季報」を目的に合わせて効率よく使いこなそう!
二季報を使った銘柄選び(1) 中国株の銘柄選びに欠かせない「中国株二季報」とは?
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(5) 香港版Suicaのオクトパス、世界に先駆けてFeliCaを採用
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(4) 香港鉄路はなにで儲けてる?鉄道会社だけど利益の柱は別にある
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(3) 海外売上比率5割超、香港の鉄道会社だけど海外で稼ぐ
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(2) 九広鉄路吸収で香港の鉄道独占事業者に、ディズニー線も運行
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(1) 公共輸送シェア約5割!香港市民の移動を支える鉄道銘柄
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(5) 広告重視の経営、どうする後継者問題?
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(4) 勝者無き戦い、「京華時報」との大バトル
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(3) 新参者のとった驚きの戦略とは!?訴訟に敗れて市場を奪う
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(2) 娃哈哈との最初の確執、亀とスッポンで成功後に飲料水業界に参入
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(1) 社名はダサそうだけど実はスゴい、ボトル入り飲料水の中国最大手
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(4) ロクシタン、南仏プロバンス発祥の自然派コスメブランド
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(8) バドワイザーAPAC、世界最大のビール会社のアジア部門
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(4) 23年に創立90周年、デジタル分野でも挑戦を続ける
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(3) 史上最大の1965年危機、ライバルの傘下に下る
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(2) 戦後の香港で再出発、香港の「超人」李嘉誠氏らを支援
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(1) 「永遠の成長」を目指す香港の華人系銀行大手
香港市場の主要銘柄:中電控股(3) 戦後復興と海外展開、SOCに守られた香港事業と不安定な豪州事業
香港市場の主要銘柄:中電控股(2) カドゥーリー家の夢と挫折、第二次大戦中は日本軍が接収
香港市場の主要銘柄:中電控股(1) 100年以上の歴史を誇る香港最大の電力会社、イラク系ユダヤ人が支配
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(3) 1910年創業の旅行かばんの王者「サムソナイト」、社名の由来となった「サムソン」とは?
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(2) ペニンシュラホテル、「東洋の貴婦人」と呼ばれた歴史と伝統の高級ホテル
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(1) シャングリラ・アジア、東京駅に隣接する「理想郷」
中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
意外と身近にある中国株、ショピングモールで探してみた(1) ポップマートのロボショップ、沼にハマる人続出の「盲盒」とは?
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(7) お湯要らず!「海底撈」のインスタント火鍋
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(6) 1840年創業の超老舗企業が生み出す「鎮江香酢」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(5) 不思議な味の中華ジャンクフード「辣条(ラーティアオ)」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(4) 周恩来が愛した大白兎のミルクキャンディー
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(3) 旺旺のミルクキャンディー、独特の企業文化と「黒皮精神」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(2) 洽洽食品のヒマワリの種と康師傅のカップ麺
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(1) 小米のスマートバンド、TCLのテレビ、ANKERのスマホアクセサリー
香港市場の主要銘柄:ネットイース(3) どん底から奇跡の大復活、ゲームを事業の柱に成長
香港市場の主要銘柄:ネットイース(2) ポータルサイト化へ戦略転換、ナスダックに上場
香港市場の主要銘柄:ネットイース(1) 中国のオンランゲーム大手、より簡単なネット接続を目指す
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(3) お米を使ったライスヌードル「米線」の「譚仔三哥」
香港市場の主要銘柄:CNOOC 中国最大のオフショア石油開発会社
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(2) 羊のしゃぶしゃぶ料理の「小肥羊」
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(1) 火鍋のトップブランド「海底撈」、抜群のエンタメ性が人気の秘密
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(3) 自前主義でライバルと差別化、顧客に喜びを届ける
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(2) 創業記念日に上場、618に強い思い入れ
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(1) 中国のネット通販大手、分かれ道となった20年前のSARS
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(2) AIGから独立して香港市場に上場、ロゴに描かれている山は?
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(1) アジア最大級の生命保険会社、1919年創業の保険代理店がルーツ
香港市場の主要銘柄:HSBC(2) 民間銀行だけど紙幣を発行、紙幣に描かれたライオンの正体は?
香港市場の主要銘柄:HSBC(1) 1865年に香港で創業、アヘンで成長した黒歴史も
意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(3) 白物家電編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(2) テレビ編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(1) スマホ、PC編
香港市場の主要銘柄:美団(3) 「アリババ系」から「テンセント系」へと転身、そして・・・
香港市場の主要銘柄:美団(2) アリババ集団との蜜月と決別、転機となった15年のある出来事
香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ
香港市場の主要銘柄:チャイナ・モバイル 携帯契約数は世界1位、NTTドコモの11倍
香港市場の主要銘柄:中国建設銀行 4大国有商業銀行で時価総額最大、インフラ建設分野に強み
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(3) アリババは102年続く企業になれるのか?
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(2) イーベイとの争いを制して中国での覇権を握る
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲
香港市場の主要銘柄:テンセント、目指すは「最も尊敬されるインターネット企業」

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております