中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄などが、たくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。
▼参考 中国株の銘柄選び
中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
香港最大の電力会社、アジア太平洋各地で事業を展開
最初に紹介するのは、香港最大の電力会社である中電控股(CLPホールディングス:00002)です。電力という生活に欠かせないライフラインを提供する会社ですが、日本の新聞で話題に上ることが少ないため、初めて名前を聞いたという方が多いかもしれません。しかし、中電控股は、発電から送電・配電、そして電力の小売りという、電力事業における川上から川下まですべてを手掛ける香港で最大の電力会社であり、アジア最大規模を誇る民営電力会社なのです。
保有する発電所の発電容量は、2022年末の持ち分換算で長期購入契約分などを含めて2万3100メガワット(MW)。送配電網の総延長距離は1万6900キロメートルに上ります。事業エリアは拠点の香港にとどまらず、中国本土、台湾、インド、豪州などアジア太平洋各地に及んでいます。
最大の収益源となっているのは拠点の香港です。香港の電力市場は、中電控股と港灯電力投資SS(02638)の2社による事実上の独占状態で、両社が香港の各エリアに電力を供給しています。このうち、中電控股は九龍、新界、離島で275万世帯に電力を供給し、域内人口の8割をカバー。一方、港灯電力投資SSは、香港島やラマ島(南Y島)などで電力を供給しています。電力を無駄なく安定的に供給するため両社による棲み分けができており、互いに事業エリアを侵食し合うようなことはありません。
中電控股が香港全体の面積の約9割を占める 出所:国際能源網
創業は1901年の英国統治時代
同社の創業は1901年の英国統治時代にさかのぼります。スコットランド出身の実業家ロバート・シュワン氏が広州の発電所を購入し、中華電力有限公司(China Light & Power Company Syndicate)という会社を登記したところから始まります。シュワン氏はもともと米国系の貿易会社であるラッセル商会で働いていましたが、1891年にラッセル商会が解散すると、ラッセル商会の資産を引き継いでシュワン・トーマス商会を立ち上げます。このとき中国は清朝末期、日本は明治時代です。
当時、清朝政府は1840年のアヘン戦争、1856年のアロー戦争の敗北を受け、香港島や九龍半島南端を割譲させられ、新界地区も1898年には英国の租借地となっていました。当時の香港の人口は約30万人。香港に住む英国人らは基本的に香港島側に住み、九龍側の人口は非常に少ない状態でした。香港島側ではこのときすでに、もう一社の電力会社である香港電灯がセントラル地区で街灯への電力供給を始めていました。中電控股はこうしたなか、後発の会社として未開拓地区で事業をスタートしたのです。
当初は買収した広州の発電所事業から始めますが、1903年に香港九龍半島の紅カン(ホンハム)に新たな発電所を建設。小型の発電機3基を使い、九龍地区での電力供給を始めます。この頃の発電容量はわずか75キロワット(kW)だったといいます。
写真はホンハムに建設された発電所 出所:中電控股HP
イラク系ユダヤ人のカドゥーリ家が支配
九龍地区での発電事業が始まりましたが、当時の九龍地区は開発が進んでいなかったため電力需要が少なく、業績は厳しいものがありました。特に北部の新界地区はほぼ未開の状態です。当面の運転資金を確保するため新たに新株を発行します。ここで出資に応じたのがイラク系ユダヤ人のエリー・カドゥーリ氏です。
写真中央がエリー・カドゥーリー氏、左右は2人の息子 出所:CLP 120Years of Shared Vision
エリー氏は1867年バグダッド生まれの青年実業家で、13歳のときにユダヤの名門サッスーン家が設立した上海のサッスーン商会で働くため、2つ歳上の兄エリスとともに移住してきていました。類まれな商才があったようで、サッスーン商会から独立後の1890年に香港上海ホテルズ(00045)の前身である香港ホテルの株式を取得してオーナーとなります。1905年には「100万ドルの夜景」で知られるビクトリアピークに登るためのケーブルカー「ピークトラム(山頂纜車)」も買収。次々と事業を買収して資産を築いていました。このあたりのことは、以下のコラムでも触れていますのでご覧ください。
▼参考 中国株の銘柄選び
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(2) 歴史と伝統の高級ホテル「東洋の貴婦人」
エリー氏は、香港の電力業界に大きな希望を抱き、香港の経済発展に伴って必ず業績も伸びると確信していました。まずは赤字が続いていた広州事業を売却し、香港事業に経営資源を集中させます。その後も追加出資を続け、ついには1918年に会社の支配権を握ります。こうして、香港の「電力王」としての基礎を築いていったのです。
次回も中電控股の続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
【香港の電力持ち株会社】香港のほか、中国やインド、東南アジア、台湾、豪州でエネルギー事業を展開する。傘下の中華電力(CLPパワー)は九龍や新界、離島で275万世帯に電力を供給し、域内人口の8割をカバー。中国では16省・自治区・直轄市で50超の電力プロジェクトを展開する。豪子会社エナジー・オーストラリアは発電と電力・ガス販売に従事。発電容量は持ち分換算で2万3068MW(22年末)。地域別売上比率は香港51%、豪州42%、インド5%など(22年12月期)。