中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。
▼参考
中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
ボトル入り飲料水の中国最大手
今回紹介するのはボトル入り飲料水の中国最大手、農夫山泉(ノンフー・スプリング:09633)です。ペットボトル入りの飲料水やウオーターサーバー用の飲料水のほか、茶飲料、機能性飲料、果汁飲料などを中国で製造・販売している会社です。
ボトル入り飲料水では長年にわたり中国で国内シェア1位の座を維持し、2022年3月にハンセン指数に採用されるほどメジャーな銘柄ですが、日本のメディアで紹介されることはほとんどなく、日本の投資家にとっては馴染みが薄い銘柄かもしれません。
出所:華経産業研究院
謎多き中国で一番の大富豪
突然ですが、読者の方に質問です。「中国で一番の大富豪は誰?」と聞かれたら、誰が思い浮かぶでしょうか?
テンセント(00700)創業者の馬化騰(ポニー・マー)氏でしょうか?それともアリババ集団(09988)創業者の馬雲(ジャック・マー)氏?ひと昔前だったら不動産で一大帝国を築いた中国恒大集団(03333)の許家印会長の名前が挙がったかもしれません。
出所:胡潤百富榜
10月に発表された最新版の胡潤中国富豪ランキングによると、1位は養生堂の鍾センセン氏(センは目へんに炎)となっています。2位の馬化騰氏、3位の黄崢氏らを大きく突き放してのダントツ1位。しかも3年連続です。「鍾センセン」という名前を聞いてもピンとこない人が多いと思います。「養生堂」という会社も聞いたことがないという人が多いでしょう。
「養生堂」は鍾氏が1993年に設立した会社で、鍾氏は「養生堂」を通じて、香港証券取引所に上場するボトル入り飲料水で中国最大手の農夫山泉(09633)、上海証券取引所に上場する体外診断用医薬品を手掛ける北京万泰生物薬業(603392)という2つの上場企業を支配しています。この2つの会社が鍾氏を中国で一番の大富豪に押し上げたのです。
鍾氏自身はメディアへの露出が極端に少なく、インタビューにも滅多に応じない人物として知られています。人付き合いが嫌いであることを公言し、中国の経営者としては珍しくお酒も飲まないと言います。「そんな時間があるなら仕事に没頭したい」という根っからの仕事人間で、経営者らの集まりにもほとんど顔を出すことはありません。
香港証券取引所に上場した際も上場セレモニーに参加せず、代表として短いビデオメッセージを発しただけでした。非常に癖の強い経営者で、世間からはよく「一匹狼」と呼ばれています。
そんな彼が、どのようにして農夫山泉の中国最大のボトル入り飲料水メーカーに育て上げ、中国一の大富豪に上り詰めたのでしょうか。その道のりを追っていきます。
農夫山泉の鍾会長 出所:農夫山泉HP
苦難が続いた幼少~青年時代
鍾氏は1954年、浙江省杭州の知識階級の家庭に生まれます。祖父は北伐時代に浙江省諸曁市の中国共産党第一支部の書記を務めた老幹部。父親は浙江省広播電台(ラジオ局)で宣伝チームのトップを務めた人物です。
1957年に反右派闘争が始まると、両親は「右派」のレッテルを貼られて迫害を受けます。1966年に文化大革命が始まると学校にも行けなくなり、小学校は5年までで退学することになります。幼少期から時代に翻弄され、不遇の道のりを歩みます。両親とともに送られた地方では、左官や大工などの仕事に従事。鍾氏は長く苦しい幼少~青年時代を過ごしたのです。
毛沢東が1976年に亡くなると、長く続いた文化大革命も終結。1977年には大学入学試験が再開されます。鍾氏は大学入試にチャレンジしますが、合格ラインに20点ほど足りず、2年連続で失敗。このあたりは、同じく杭州出身で、大学受験に2度失敗したアリババ集団(09988)創業者の馬雲(ジャック・マー)氏に通じるところがあります。しかも2人は同じ寮で一時期を過ごしたこともあるのです。世界は狭いものです。鍾氏にとってこの時代の大きな挫折が成長の素地になっているのかもしれません。
次回も農夫山泉の続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、2020年に香港証券取引所のメインボードに上場したボトル入り飲料水最大手の農夫山泉(09633)です。
【ボトル入り飲料水の中国最大手】「農夫山泉」ブランドでボトル入りのナチュラルミネラルウオーターの製造・販売を手掛ける。中国市場で長年にわたってシェアトップを維持。新疆ウイグル自治区や黒龍江省、浙江省、河北省、湖北省、四川省など全国12カ所に湧き水や深層水の水源を持ち、水源の近くに工場を保有する。茶飲料「東方樹葉」、機能性飲料「維他命水」、果汁飲料「農夫果園」なども生産。これら3種でもシェア上位。